「オリンピックを阻止するために韓国の航空機を爆破せよ」北朝鮮のテロ行為が世界的に広まった1987年大韓航空爆破事件の裏側
「まだ若い真由美さんには本当にすまない」
蜂谷真一は出国待合室の椅子に座って、出発20分前の午後11時5分頃、9時間後に爆発するよう時限装置をセットし、2人はソウル行きの大韓航空858便に搭乗した。 蜂谷真一はバッグを頭上の棚に上げ、同機は午後11時27分にバグダッド空港を出発、翌日午前2時44分に経由地のアブダビ空港に到着した。そして2人はバッグを置いたまま飛行機を降りた。バッグの中には爆破用のトランジスタラジオと液体爆薬が入った酒ビンが入っていた。 大韓航空858便から降りた2人は、午前9時発ローマ行きのイタリア航空機に乗り換えるため、通過旅客用待合室の方へ歩いて行く。ところが、出口で空港案内員から航空券と旅券の提示を求められ、蜂谷真一はここで躊躇した。 脱出用として用意したアブダビ→アンマン→ローマ行きのチケットを見せると、アブダビが出発地なので、いったんアブダビ空港の外へ出てから、再び出国手続きをして飛行機に乗らなければならない。 通過旅客用待合室へ入るのに、アブダビへ来るまでのルートが明示されていないアブダビ→アンマン→ローマ行きの航空券を提示すれば疑われるはずだと思ったのだ。そこで乗ってきた航空券(ウィーン→ベオグラード→バグダッド→アブダビ→バーレーン行き)と旅券を提示した。 空港職員は旅券と航空券を受け取って、バーレーン行きの手続きをした。2人は通過旅客用待合室で待機後、29日午前9時発のバーレーン行きに乗り込んだ。これは、予想外の出来事だった。2人が予定通り、ローマ行きの飛行機に乗ってすばやく逃げていれば、大韓航空858便爆破事件は永遠に迷宮入りになったかも知れない。 大韓航空858便がミャンマー上空で失踪したという緊急ニュースが流れると、韓国情報機関の安企部が動き出した。アブダビ空港で降りた15人の外国人搭乗者名簿をチェックし、〝蜂谷真一〟と〝蜂谷真由美〟の2人の日本人に注目。 日本政府に依頼し調査した結果、蜂谷真由美の旅券が偽造であることが判明した。日本政府発行の旅券は独自の裏番号があって、すぐ照合できる仕組みになっているのだ。 2人は12月1日、バーレーン空港でローマ行きの飛行機に乗るために出国手続きをしている時に、バーレーンの警察官によって身柄を拘束された。 待合室で待機中、真一は「私は十分に生きたが、まだ若い真由美さんには本当にすまない」と、ささやいた。真由美はこれを自決の指示と受け取って、行動に移ろうとしたその矢先、警察官が「カバンをよこせ」と言ったため、真由美はカバンから毒薬アンプルの入ったタバコを1本抜き取り、アンプルを噛もうとした。 その瞬間、警察官が飛びかかったので、完全に噛み砕けず、ガラスのアンプルの端の部分だけが壊れた。青酸は気化して真由美の口の中へ入り、気を失って倒れた。一方、蜂谷真一はアンプルをガリガリと噛み砕いてタバコとともに飲み込んだため、彼はその場で即死した。
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