【年末特集】任天堂が送る怪作“笑み男”の評価はなぜ割れた? 「ファミコン探偵倶楽部 笑み男」をネタバレありで語らせてほしい
任天堂から8月29日に発売されたアドベンチャーゲーム「ファミコン探偵倶楽部 笑み男」をプレイされただろうか? 【画像】こちらが初代「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者」(画像は任天堂のページより) 任天堂といえば「スーパーマリオ」や「星のカービィ」シリーズなど可愛らしいビジュアルのゲームを多数展開するメーカーで、ゲームだけに留まらずグッズやテーマパークなど、子どもも大人も虜にする多彩なコンテンツを生み出している。そんな中、7月に公式YouTubeチャンネルにて「笑み男」と題した謎の映像が公開されたのだ。 本映像は動画の最初に「この映像には、視聴者に不安を与える恐れのある表現が含まれます」という注意事項が表示され、その後、紙袋をかぶったコート姿の男が映し出されるというもの。そもそも新作ゲームに関する映像なのかすらわからず、加えて映像にはノイズが入るなど不気味であり、任天堂公式チャンネルの映像とは思えない内容になっていた。 新作のゲームなのか、はたまたゲーム以外のコンテンツなのかと一部のゲーマーから注目を集めていたが、その1週間後に本作は「ファミコン探偵倶楽部」シリーズ35周年ぶりの新作であることが明かされる。 このように、最初からやや奇抜なプロモーションを行なっていた本作だが、結果的に遊んだプレーヤーによってやや評判が分かれる形となってしまった。本作については弊誌でもレビューを掲載しているものの、そちらではアドベンチャーゲームという特性上、ネタバレを控える形で紹介している。発売より約4カ月が経過した今、ネタバレありで魅力について掘り下げていきたい。 もちろん、まだ本作が未プレイという方もいるかと思うので、前半は物語序盤・中盤の紹介に留め、後半からネタバレ全開の内容となる。個人的にはかなりオススメしたい1作であり、「名前は知っているけどプレイしていない」という人にこそ是非遊んでほしいと感じる。それでは「ファミコン探偵倶楽部 笑み男」について紹介していく。 ■ 「ファミコン探偵倶楽部」シリーズについてまずはおさらい まずはじめに「ファミコン探偵倶楽部」について簡単に紹介する。本シリーズは初代「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者」がファミリーコンピュータ ディスクシステム用のタイトルとして1988年に発売された。テキストベースのアドベンチャーゲームをベースに「聞く」、「取る」、「調べる」などのコマンドを選択し、事件の調査をするコマンド選択式アドベンチャーとなっている。ポイントアンドクリックアドベンチャーのように、画面上のカーソルを動かして調べたい場所を直接選択する要素もあり、1人称視点で聞き込みをしたり、事件現場を隅々まで調べるなど、さながら探偵らしいロールプレイが楽しめる作品として誕生した。 「消えた後継者」の発売翌年には第2作目となる「ファミコン探偵倶楽部PartII うしろに立つ少女」が発売。その後スーパーファミコン専用周辺機器「サテラビュー」向けに「BS探偵倶楽部 雪に消えた過去」が発売されるものの、しばらくの間は新作に関する続報が途絶える形となっていた。 そんな中、2021年に初代「消えた後継者」と2作目の「うしろに立つ少女」がMAGES.の手によってSwitch向けにリメイクされる。ゲームのシナリオなどベースの部分はそのままに、フルボイス化およびグラフィックスや演出がブラッシュアップし、現代風の作品として生まれ変わった。 そして、冒頭でも紹介した通り「シリーズ35年ぶりの新作」と銘打たれる形で、シリーズ完全新作となる「ファミコン探偵倶楽部 笑み男」が発売された。いずれも、日本を舞台とした“探偵もの”であり、ゲームシステムについては初代から大きな変化はない。一方で、原作と比較すると2021年発売のリメイク版と同様にグラフィックスなどが大きく進化し、ビジュアル面については今風のゲームになっている。 どの作品も主人公は同じだが、ストーリーが繋がっているということはなく、それぞれ独立した事件を調査するため、今年発売の「笑み男」からプレイするというももちろんアリだ。 ■ 「笑み男」は主に2つの軸をベースとしたストーリーが展開 ここからは「笑み男」本編のストーリーについて紹介していく。核心的な内容には触れずに、基本的には物語中盤までの紹介にとどめるが、何も知らずにプレイしたいという人は注意してほしい。 本作は男子中学生・佐々木英介の絞殺死体が発見され、主人公が所属する空木(うつぎ)探偵事務所が警察から事件の調査を依頼されるという場面から物語はスタートする。主人公たちが早速現場に向かうと、被害者は頭に紙袋を被せられた状態で発見されたことが判明する。ただ、この紙袋は顔を隠すためにだけ被せられたわけではなく、側面に笑顔が書かれており、どうやら普通の殺人事件ではないことが見て取れる。 事件の調査を進めていくと、どうやら“笑み男”と呼ばれる都市伝説と類似していることがわかってくる。この都市伝説は「笑顔が描かれた紙袋をかぶった男が悲しい女の子の前に現われる」という内容で、どうやら今回の事件と似ているらしい。加えて、18年前に起きた「連続少女殺人事件」でも同様に被害者に紙袋が被せられていたらしく、これらと似ているということもわかってくる。「連続少女殺人事件」については実際に発生したもので、犯人は未だに捕まっておらず、未解決となっているようだ。 なぜ、そんな都市伝説や過去に起こった事件を彷彿とさせる事件が起こってしまったのだろうか――。 本作「ファミコン探偵倶楽部 笑み男」は、男子中学生の殺人事件についてと、過去に発生した笑み男に関する事件という2つの謎を中心としたストーリーが描かれていく。 また、18年前に事件の付随して1人の少年が行方不明になったまま今も見つかっていないという。その少年の名前は「久瀬 誠」。今回の事件を担当する刑事「久瀬純子」と名字が同じであり、どうやら久瀬刑事は幼い頃に事件に巻き込まれていたらしいことも明らかになり捜査に絡んでくる。 今回の事件と過去の事件は関連性があるのかなど、地道な調査が始まるが、18年前に事件が発生してからしばらくの間は事件が起こっていないこと、加えて当時の事件の被害者は全員少女であったが、今回の被害者は男子中学生だったことなど、「おや?」と感じる相違点がでてくる。 事件解決に向けて調査に臨むが、なかなか思うようには進まない。今回の被害者である佐々木英介のクラスメイトに接触を試みるも体調不良で休んでいたり、その学校の先生が何やら隠し事をしていたり、刑事と数日間連絡が取れなくなってしまったりもする。過去の事件を探るべく、聞き込みを続けるもなかなか情報が集まらず、そうやすやすとは解決の糸口が見つからない。しかし、「笑み男を見た」という証言が出てくるなど、要所要所で物語が突如として動き出すため、怖いと思いつつも見てしまう、怖いけど先が気になるという衝動に駆られるシナリオ作りになっている。 また、場面場面の見せ方もポイントで、Switch向けに発売された「ファミコン探偵倶楽部」シリーズはいずれも、ノベルゲームをベースとしつつカットシーンが要所要所に用いられている。今作「笑み男」は“インタラクティブドラマ”というジャンル名になっており、恐怖を煽る場面にカットシーンが挿入されるのである。シナリオを読んでいる最中に“急にカットシーンへと切り替わる”ため、不意にどきりとさせられる。 ■ 最大の見所は終盤の怒涛の展開にあり。評価が割れた理由についても考える さてここからは物語の最終的なネタバレありで見どころについて語っていくため注意してほしい。 筆者が本作を評価する点はズバリ終盤の怒涛の展開にあると思う。本作は全11章+終章、および最終エピソードという構成になっている。 ここに至るまでに数名のから「笑み男を見た」という目撃証言が集まっているほか、事件に大きく関わっているとされる人物についてなど、様々な手がかりが集まりつつある。一方で物語終盤まで大きな謎は明かされず、はたまた「笑み男」の正体ついては本編では明かされないという構成だ。対して、本編最大の見せ場は終章だと感じる。 この場面は物語のキーマンとなる久瀬刑事と主人公が古びた廃村で出会う場面から始まる。 ここに至るまでは、明らかに物語が終わりに近づいているかが感じられる展開となっており、ひとけが感じられない道をしばらく移動し、日が落ちて明らかに不穏な空気が漂ってくる。たどり着いた廃村にて主人公は久瀬刑事と“なぜか”出くわし「帰れ」と命じられる。強い口調で命令されたため、来た道を戻ろうか迷っている矢先、突如として銃声が聞こえてくる。主人公は再度戻って銃声の発生源と思しき家屋の扉の中には血まみれで倒れた男と、返り血を浴びた久瀬刑事が立っていたのだった。 衝撃的な場面を目撃することになったが、ここからが正念場である。 放心していたかと思った久瀬刑事はなんと主人公に対し「この現場を見られたからには死んでもらう」と銃を突きつけ、18年前に何が起こったのかを語り始める。そこでは自身が幼い頃に笑み男に会ったこと、そしてなぜ兄が行方不明に至ったのか、そして彼女の目に映る笑み男の素顔……。 衝撃の事実が次々と明かされる怒涛の展開となっており、めちゃくちゃ怖いのにプレーヤーとしても読み進める手が止まらなくなる。ここまで曖昧にされていた部分が一気に明かされる形で、煮詰めに煮詰められたシーンだと感じる。 その後、物語としては一旦のエンディングを迎えるが、この時点では笑み男の正体については一切不明のまま。どうなるかと思いきや、この先に30分を超えるアニメ映像が用意されており、ある少年の過去と、笑み男へと変貌するまでの辛く悲しい過去が描かれ、物語は幕を閉じる。 前述したようにこの最後のパートに関しては完全にアニメ映像になっており、プレーヤーはただ見るだけである。最初はゲーム本編と同じように、過去を知るキャラクターたちに話を聞いて回る形になっているのだが、途中から完全なアニメーションとなっている。 この部分については筆者も驚いた。30分以上の尺の映像になっており、プレーヤーは一切何もできないまま、笑み男の過去が語られる。アニメで残りの伏線の回収してしまうという作りにも驚いたし、ダイジェスト映像のようにも感じられたからだ。一方で、これは時系列的には過去の話であり「プレーヤーである主人公にはすでに介入できないからこそ、映像で見せているのではないか」という意見をSNSで見かけた際には思わず膝を打った。いずれにせよ、プレーヤーはやや置いてけぼりになるシーンではあるが、今作は“インタラクティブドラマ”というジャンル名が用いられている理由はこのあたりにもあるのかなと思う。 また、評価が割れている点として「推理する要素が薄い」や「主人公が物語にあまり介入していない」といった意見なども見受けられる。ストーリーでは受動的に真実が明かされる形であり、これらの意見は正しいものである。しかし、このように感じ取られる部分は別にあるようにも思う。これはあくまでも筆者の考えになってしまうが、本作の物語はかなり暗い終わり方をする。本シリーズは1作目、2作目共にあまり明るいエンディングにはならないのだが、本作においては最終的に救いようのないストーリーが一方的に描かれて物語の幕が閉じるという構成であり、これが「真実にたどり着いた爽快感」を「最終的な結末の悲しさ」が上書きしてしまったようにも思う。その結果、評価が分かれる結果になってしまったのではないかと筆者は考える。 ただし、シリーズ第1作目のシステムをほぼそのまま採用しつつも「次に何をすればいいのかわからない」という状況に極力ならないような設計になっていた点も評価したい。このあたりは前作プレイしていないと感じられない部分でもあるが、重要なキーワードがハイライトされていたり、次に選ぶべき選択肢が点滅したり、選択肢の「移動」が適切なタイミングでのみ表示することで、行き詰まることが減るないようになっていたりなど、ここは本当にプレーヤーに対する配慮が行き届いており、よくできていたと感じる。 ■ シリーズとしてのオリジナリティを重視しつつ、描きたかったものを最後まで描いた1作 シリーズ前2作と比較して、本作においては「笑み男」というある種キャッチーな「紙袋を被った大男」という“怪人”を生み出すことで、より多くの人に「ファミコン探偵倶楽部」というシリーズを知って・遊んでもらえたのではないかと思う。一方で、多くの人が遊ぶことにより、当然それだけ多くの意見が生まれ、マイナスに捉える意見が相対的に多く見られてしまったのかもしれない。 一方で、本作にはいいところもたくさんあり、じわじわと恐怖を煽るジャパニーズホラーの良さだったり、カットシーンを使った映像表現、さらに恐怖を助長するテーマ曲「笑み男」の各種アレンジなど、シナリオ以外にも魅力的な要素はたくさんある。プレイ時間もおおよそ10時間ほどでクリアできるボリュームになっているため、サスペンスやミステリー作品が好きという人には刺さる部分があるのではないかと思う。 また、本作は発売前の段階でプロデューサーの坂本賀勇氏が「結末が人によっては賛否が分かれるかもしれない」と伝えており、ある程度はマイナスが意見が生まれてしまうことも織り込み済みだったものかと思われる。その上で「思ったことや感じたことを長く語り合ってもらえればと思っています」とも発言している。 アドベンチャーゲームは1度結末を知ってしまったらそれきりかもしれないが、まだ遊んだことがない人は実際に自分の手でプレイしてほしい1作である。プレーヤーとして実際に遊ぶことで見えてくる世界があるはずだ。 個人的には今後も「ファミコン探偵倶楽部」シリーズの新作が発売されることを心待ちにしております! (C) Nintendo
GAME Watch,岩瀬賢斗