日韓すれ違う主張 輸出管理の厳格化問題を考える
日本と韓国の間で非難の応酬となっている輸出規制問題。日本が半導体材料となる化学製品の輸出管理を厳格化したことに端を発する今回の問題は、事態打開の糸口が見えず、長期化の様相を呈しています。今回の措置を外交の観点からどう見るか。元外交官で平和外交研究所代表の美根慶樹氏に寄稿してもらいました。 【画像】混迷する徴用工・慰安婦問題 日韓双方の主張を整理する
「協議しない」は国際理解得られない?
日本政府は7月1日、韓国の主要産業である半導体製造などに使われる化学製品3品目(フッ化水素、フッ化ポリイミド、レジスト)の輸出について、従来の包括的許可を取りやめ、一件ごとの許可制にしました。また、安全保障上問題がない国として輸出手続きを簡略化する「ホワイト国」のリストから韓国を外すことにしました。その結果、3品目以外でも軍事転用が可能な技術や製品を韓国に輸出する際に、原則個別に許可が必要になります。 そうなると、1件ごとの輸出許可を得るのに数十日、長いときには3か月もかかるなど長期化することになり、韓国企業は大きなダメージを受けます。 韓国政府は強く反発し、日本政府を非難しました。日本政府には、今回の措置は日本企業と日本政府の間の問題であり、韓国政府と協議しないという考えがあるようですが、今回の措置により、日韓間で外交上の問題が生じていることは明らかです。 また韓国政府は7月9日、ジュネーブで開かれた世界貿易機関(WTO)の物品貿易理事会で日本を批判し、輸出規制措置の撤回を求めました。こうした状況を無視して、今回の措置について日本政府が韓国と協議しないというのでは国際的に理解は得られないでしょう。
かつてなく悪化した日韓関係
これまで日韓間では、さまざまな問題が起こりました。2012年に当時の李明博(イ・ミョンバク)大統領が竹島へ上陸し、また、天皇陛下に謝罪を要求する発言を行った際には、日本側が強く反発しました。 さらに日韓両国は、外貨(主として米ドル)が必要になった場合、お互いに融通しあう「通貨スワップ協定」を結んでいました(実際には日本が外貨不足になることはまずありません)。その延長期限が2012年10月末に到来するのを前に、日本側は延長しない方向で検討しましたが、経済面で大きな支障が出ることは避けなければならず、結局延長しました。ただし、通貨スワップ協定については、その後も紆余曲折があり、2015年2月に終了しました。その後、この協定を再開することについて話し合いが行われてきましたが、実現していません。 輸出管理の強化は、通貨スワップ協定の場合と異なり、日韓間で事前に話し合いが行われないまま、措置が取られました。 今回、日本政府は輸出規制措置に踏み切りましたが、一方で日韓関係は、慰安婦問題、徴用工問題、日本の海上自衛隊機へのレーダー照射問題などによってかつてないほど悪化しています。ただし日本政府は徴用工問題への報復措置ではないと説明しています。徴用工問題については強制執行により日本企業の財産を賠償に充てようとする動きがあり、日本政府は日韓請求権協定に基づいて仲裁委員を任命する第三国の選定を韓国に求めていますが、韓国政府は18日に仲裁委員会設置を受け入れない考えを示しました。