栗山英樹が痛感した変わりゆく野球界 「もうデータではなく、サイエンスの時代になっている」
私はWBCであらためて、野球の勉強をすることができたと考えています。「このくらいのレベルの選手でないと世界では戦えない」ということがわかりました。秋のドラフト会議に向けてアマチュア選手を中心に見ていますが、そのラインが頭のなかにあります。 前回の侍ジャパンのメンバーには、ドラフト1位で指名された選手もいれば、ドラフト下位入団の選手も、育成出身の選手もいました。プロ野球への入り方はいろいろだけど、目指すべきは「ここだ!」というのが明確になりました。 160キロのストレートを投げる投手もいれば、ロングヒッターもいる。守備や小技が上手い選手や足のスペシャリストなど、いろいろなタイプの選手がいました。 10年後、「2023年の侍ジャパンの試合を見て、こういう選手になろうと思いました」という選手が出てきてくれればと期待しています。 この春、メジャーリーグを視察してきました。野球が変わっていることを痛感しています。もうデータではなく、サイエンスの時代になっています。 毎日、アナリストのレポートを見ていますが、これまでのモノサシではもう測れなくなっていると感じます。だから、私たちの頭も一度、真っ白にする必要がある。 自分の体験はもちろん大切ですが、それだけでは見誤ることがあります。サイエンスの力を使って出せるデータを使いながら、自分の経験も加味しながら、物事を冷静に見なければなりません。 WBCで優勝したから、私のことを専門家だとか目利きだとか思っている人がいるかもしれません。でも、そんなことはありません。これはまったく謙遜ではなく、心からそう思います。 野球はどんどん変わっているので、勉強しない者はついていけなくなるという現実が目の前にあることを実感しています。もう、ひとりの天才がすべてをやる時代ではありません。 サイエンスが導き出す答えに、私たちの経験からくるもの、覚悟を超えた感性のようなものを加えて判断をする必要がある、と強く感じています。それぞれをしっかりと分けながら、判断する際には、それらをうまく利用することが求められているのです。 栗山英樹(くりやま・ひでき)/1961年生まれ。東京都出身。創価高、東京学芸大学を経て、84年にドラフト外で内野手としてヤクルトに入団。89年にはゴールデングラブ賞を獲得するなど活躍したが、1990年にケガや病気が重なり引退。引退後は野球解説者、スポーツジャーナリストに転身した。2011年11月、日本ハムの監督に就任。翌年、監督1年目でパ・リーグ制覇。2016年には2度目のリーグ制覇、そして日本一に導いた。2021年まで日ハムの監督を10年務めた後、2022年から日本代表監督に就任。2023年3月のWBCでは、決勝で米国を破り世界一に輝いた
元永知宏●文 text by Motonaga Tomohiro