ファーストサマーウイカ「椿餅のシーンは本当に辛かった。撮影日が来るのが嫌で嫌で(笑)。ききょうに共感できなかった」
◆『源氏の物語』、まひろへの複雑な気持ち ━━ 第36回で中宮・彰子が出産。一条天皇の心を彰子に向けたのは、女房のまひろが書く『源氏の物語』であることを初めて知ったききょうの眼光が鋭くて、あの表情は驚きだけではないと感じました。 あのシーンでは、短いながらも喜怒哀楽の全てが入っていました。あの子がそんなすごい作品を書いたのね、という先輩作家としての驚きと喜びと悔しさ。「私たち友達じゃなかったの!?なんで!?」という悲しみと怒り。 全身の毛穴がばっと開いて発汗した後キュッと冷え込むような、声にならない声が自然と出たようなシーンでした。 ━━第38回で、ききょうが、まひろに『源氏の物語』を読んだことを告げるシーンがありましたが、複雑な気持ちだったのでしょうね。 ききょうは作家として、まひろの作品を素直に素晴らしいと感じたんだと思います。腹が立っていたり嫉妬していたとしても、まずは先輩として「褒める、評価する」ことによって、同じ土俵で戦わない、先輩の尊厳を脅かさないための行動原理は、部活や会社でもあることだなと感じました。 ききょうが最後に「腹を立てている、源氏の物語を恨む」と真っ直ぐ言い放ったのは、それだけまひろを好きで認めていたのと、その恐ろしさも感じたからかなと。 大したことなければきっと言わないですから、無視できない脅威だと察知したからなんでしょうね。 ━━定子の兄である伊周(三浦翔平さん)は、ききょうにとってどういう存在だったのでしょうか。 定子に対しての言動には眉をひそめることもありましたが、一族のトップとして慕っていたと思います。 呪詛に狂っていく様子もききょうは知らなかったかもしれないですね。
◆ききょうに対して共感しがたいシーン ━━第41回の彰子が藤壺で開いている和歌の会に、ききょうが椿餅を持って乱入するシーンは凄みがありましたね。 このシーンは本当に辛かったです。撮影日が来るのが嫌で嫌で(笑)。 今まであれだけ親近感を覚えていたききょうに対して、共感しがたいシーンでもありました。 それは私自身が定子様ほどの大きな光を失ったことがないからなのか、あるいは自分も同じ境遇になればこうなってしまうかもしれないという恐怖もあったのかもしれません。赤染衛門(凰稀かなめさん)に歌を求められた時も、過去のききょうであればサッと皮肉めいたような歌を詠んだのではとも思いました。 でも、予期せぬ賑やかな藤壺の様子を目の当たりにし、活き活きとしたまひろがいる。その揺らいでいるところに、彰子のお言葉も嫌味と捉えてしまうのは、ききょうの余裕の無さ、必死さがセリフから滲み出ていました。そうなってしまう気持ちもだんだんとわかりました。 次のシーンのまひろの日記の文言がある以上、同情の余地も無い言動になるようにシーン全体を捉えてはいましたが、それを考えれば考えるほど本当に苦しかったですね。せっかく和泉式部/あかね(泉里香さん)とも会えるシーンだったのに、あの空気(笑)。スピンオフがあるなら、あのメンバーで楽しいシーンを撮りたいですね。 ━━第43回に、ききょうが「恨みを持つことで、己の命を支えて参りましたが、もうそれはやめようと思います」と、大宰府に行く隆家(竜星涼さん)に話すシーンがありますが、どういう心境の変化なのですか。 定子様の遺児で第一皇子である敦康親王(片岡千之助さん)は東宮になれず、はずれた道を歩まされる。恨み続けることをやめようと思うまでの過程や出来事は台本にはありませんが、ききょうにとって恨みという憑き物がとれる瞬間があったのだと思います。こりゃもう無理だ、やーめた!というお手上げに近いのかなと限界を感じて、引退することを決めるみたいな感じでしょうか。 恨みの日々が遠き日のことのようになり、その後は穏やかな日々になったのだと思います。
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