TSMC、中国向け「先端AI半導体」の製造受託停止へ アメリカ政府の対中輸出規制強化の前触れか
半導体の受託製造(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が、中国の半導体設計会社の一部に対して、回路線幅7nm(ナノメートル)以下のプロセス技術を用いるAI(人工知能)半導体の製造受託ができなくなると通知したことがわかった。 【写真】中国のファーウェイがTSMCに製造を委託し、2019年にリリースしたAI半導体 財新記者の取材に応じた複数の関係者が明らかにした。この情報に関する記者の質問に対して、TSMCは「臆測にはコメントできない」と前置きしたうえで、「わが社は(関係国の)輸出管理規則をはじめ、順守すべきすべての法律と規則に厳格に従っている」と回答した。
■技術的な線引きは不透明 AI半導体の設計を手がける中国企業の幹部によれば、TSMCの通知は(自社以外の)同業者にも届いたものの、製造受託を打ち切ること以外の詳細は書かれていないという。AI半導体以外なら7nm以下のプロセスを利用できるかどうかなど、技術的な線引きは不透明だ。 ある事情通の専門家によれば、TSMCは中国の半導体設計会社向けの7nm以下の製造受託を一律に打ち切るのではなく、その他の要件を組み合わせて対象を絞る可能性が高い。具体的には、チップに組み込まれたトランジスタの数やチップのサイズ、メモリーの帯域幅などだ。
TSMCの通知の背景について、中国の業界関係者の間では「アメリカ政府による先端半導体技術の対中輸出規制の強化が関係している」との見方が主流だ。ここ数年、アメリカ政府は中国の半導体産業の技術力向上を阻止しようと、先端技術の輸出規制の範囲を拡大し続けている。 これまでに、14nm以下に対応した(露光システムなどの)半導体製造装置の対中輸出を封じたほか、海外のファウンドリーが中国の半導体設計会社から高性能チップの製造を受託することも制限した。
高性能チップに関しては、アメリカ商務省の産業安全保障局(BIS)が2022年10月に輸出管理規則を改訂し、演算能力4800TOPS(1秒間に4800兆回)またはデータ伝送速度600GB/s(1秒間に600ギガバイト)以上の性能を持つ半導体の対中輸出を禁止した。 BISはこの規制を1年後に再改訂し、「トータル・プロセッシング・パフォーマンス(総合的な処理能力)」と呼ぶ新基準を導入。禁輸対象をさらに広げた。