「アレッポ忘れるな」と叫んだ大使殺害の男 ロシアとトルコの関係に影響は
トルコ国内で高まる反米感情
殺害犯とギュレン派の繋がりを示すものは何も出ておらず、ギュレン師の広報担当者は複数のメディアに対し、ギュレン派の関与を強く否定するコメントを出している。ロシアの大使がトルコ国内で殺害されたことで、SNSでは「第一次世界大戦の引き金となったオーストリア=ハンガリー帝国の皇太子夫妻が殺害された事件を思い起こさせる」といった書き込みが相次いだが、専門家の間では駐トルコ大使の殺害でロシアとトルコの関係が悪化する可能性は低いという見方が出ている。 アメリカのワシントンにあるシンクタンク「アトランティック・カウンシル」でトルコ情勢の分析を行うアーロン・スタイン氏は、シリアにおける軍事作戦の成功にトルコの協力が不可欠と判断したロシアと、周辺地域における軍事的プレゼンスを拡大するためにはロシアへの接近が必要と考えたトルコとの間で利害が一致しているため、大使の殺害はむしろ両国の関係を強固なものにするきっかけになるかもしれないとニューヨークタイムズの取材に対して語っている。 また、アメリカ政府が長年にわたってギュレン師を匿ってきたことで、トルコ国内の反米感情は高まっており、ギュレン派の関与という落としどころで落ち着けば、両国がそれほど大きな外交的摩擦に悩まされることはない。すでにロシアの捜査官はトルコ入りしており、大使殺害に関する公式見解が出されるのも時間の問題だが、シリア情勢やヨーロッパ地域の覇権争いでアメリカが敗者となるきっかけを大使殺害事件は生み出したのかもしれない。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト