“ヤングケアラー”の実態を正しく理解できている? ノンフィクションで描かれる『48歳で認知症になった母』とその子どもの生活【書評】
近年ようやく少しずつ、その存在が周知され始めたヤングケアラー。 本作のやっちゃんのように、様々な事情から周囲の人々や社会に助けを求められなかった子どもたちも多く、その存在が長年世間から断絶されていた点も、この社会問題の大きな負の一面である。 近年ではその存在や呼称の認知度も高まり始めてはいるものの、多くの場合当事者である子どもたちが実際に見た景色や、実際に彼らが置かれた環境を知る機会はまだまだ少ない。 そんな数少ない機会とも成り得る本作に触れたことで、おそらく大きなショックを受けた読者もきっと少なくないはずだ。中には主人公であるやっちゃんのあまりにも過酷な環境に、作品を読んでいて辛くなってしまう人もいるかもしれない。
そして、「助けたい」という気持ちはあれど、「それでは私たちにできることは何か?」と問われると、彼らを救うために実際に取れる具体的な行動の選択肢はほぼ持ち合わせていない人も多いことだろう。 しかし、自分が知らないヤングケアラーの世界を「正しく知る」。それもまた間接的にではあるが、彼らを救う大きな一歩にもなるのではないだろうか。
実際に自分がヤングケアラー当事者だった人、あるいは身近にヤングケアラーのいる人にとっても、おそらく本作は読むことで気づきや自身の救済にもなるエッセイである。 しかしそれ以上に、ヤングケアラーという存在を知らない人、あるいは言葉だけを知っているという人こそ、ぜひ本作を読んで、まずはその実情を「正しく知る」ことから始めてほしい。そう思えるエッセイとも言えるだろう。 文=ネゴト/ 曽我美なつめ