サイバーエージェント、今年も初任給42万円 長時間労働リスクの懸念も
初任給引き上げが波紋を呼んでいる。アパレルのセレクトショップを手掛けるTOKYO BASEは、2024年4月から初任給を40万円に引き上げると発表。ただし80時間分の固定残業代を含み、「長すぎるのでは」と話題を集めた。 【関連画像】固定残業制による高額初任給が相次ぐ 長時間の固定残業制による賃上げは近年目立つ。サイバーエージェントや人材サービスのレバレジーズ(東京・渋谷)も80時間分の固定残業制を導入。DeNAや楽天グループ、GMOインターネットグループなども数十時間分の固定残業制で、メガベンチャーを中心に固定残業制が拡大している。初任給を「かさ増し」して新卒採用の競争力を高める狙いがあると見られる。 固定残業制は長時間労働の温床になりがちだ。北見式賃金研究所の北見昌朗社会保険労務士は「80時間は常軌を逸した長さだ」と批判する。さらに、残業が規定時間を上回る場合は追加で賃金を支払わねば違法となるが、実際には支払われないままうやむやになる事例も多い。固定残業の時間が長い企業では特にリスクが高まる。「十分残業代は支払われている」という意識から労働時間の管理がおろそかになったり、従業員が自ら労働時間を過少申告したりするからだ。 いびつな賃上げの背景にあるのは売り手市場の急拡大だ。新型コロナウイルス禍による採用控えから一転、企業は人手不足に頭を悩ませる。人手不足の指標である日銀短観の「雇用人員判断DI」は20年ごろから値が「不足」の方向に拡大しつづけ、24年初頭の値はバブル期並みとなった。 従来の給与水準では売り手優位の採用競争を勝ち残れない。しかし基本給を引き上げると退職金や賞与も連動して変化し、総額人件費への影響が大きい。不況時に減額するハードルも高い。企業はこうした状況を受け「リスクマネジメントをしつつ素早く賃上げする手段として、固定残業制を採用した可能性がある」と、アヴァンテ社会保険労務士事務所代表の小菅将樹氏は指摘する。 採用の競争力を急いで高めようとする企業にとって、給与テーブルを細かく作り変えずとも「どんぶり勘定」で賃上げできる固定残業はありがたい制度だ。最近同制度を採用したある企業の幹部は「競合の賃上げに急いで対抗する必要があった」と打ち明ける。