初の担当選手は“借金デビュー” 高卒選手を預かる責任感…プロ野球スカウトが抱く親心
引退後も続く交流…プロ野球スカウトと選手の絆
プロ野球選手とスカウトの関係性はドラフト会議以降も続く特別なものだ。西武の岳野竜也アマチュアスカウトは、現役引退から11年の月日がたったが、今でも自身を担当してくれた恩師との交流が続いているという。外側からは見ることのできない互いの特別な関係性について聞いた。 【動画】まさかの“借金でデビュー”…岳野スカウトが担当するドラ1左腕の姿 2008年にドラフト5位指名で西武に入団した岳野氏をプロの世界に導いた存在が当時西武でスカウトを担当していた奥薗満氏だった。選手時代を通じて奥薗氏に抱いたイメージは父親に似たものだった。 「真夏でもいつもジャケット片手にグラウンドに来ていました。『お前連絡全然ないじゃないか』とか、たまに言われて、『うるせえな』と思ったりもしていました(笑)」 13年の現役引退後、20年までブルペン捕手を担当し、21年からスカウトに転身した。引退から11年の月日がたったが、いまだに食事に行ったりもする間柄だと明かす。「そんなに頻繁には連絡は取らないです」としながらも、「やっぱり感謝しています。自分も選手を担当するようになって、思い入れがありますし、同じ気持ちで見てもらっていたんだなと思うと、なおさらですね」と恩師への思いを口にする。 岳野氏も4年間のスカウト生活の中で3人の選手を担当することになった。印象的だったのは21年のドラ1で入団した大卒左腕・隅田知一郎の入寮時の思い出だ。財布を持たずに上京した隅田はいきなりの“借金デビュー”となった。 「今でも思い出してびっくりですよ。隅田は北九州空港から、僕は福岡空港から飛んで、羽田空港に僕が先に着いていまいた。隅田の到着を待っていたら、出てきた瞬間に一発目から『やらかしました!』って。『うわ、何やったの?』と聞いたら、『財布が……』と言っていたので、『お金を忘れたぐらいで良かった~』とホッとした思い出です(笑)」
役所手続きでは「冷静を装いながらも必死」
翌22年には、ドラ2で古川雄大ら初めての高卒選手を担当することになった。大卒とは異なり、まだまだサポートが必要な年齢。親御さんとは密に連絡を取ることを意識した。 「特に入寮して1年目は、意識的に頻繁に連絡を取るようにしていました。野球以外の私生活面でのことが多かったです。例えば税金の話だったり、そういった細かいところは親身にサポートして、何かあったら報告するようにしていました」 もちろん岳野氏自身もそういった税金関係に強いわけではない。入寮時には住民票などの役所手続きも行ったが、「前の日に携帯でめっちゃ調べました」と笑う。「僕はまだ社会勉強1年目。でも、隅田は大卒1年で22歳。僕のことを大人だと思っています。なんでも知っているでしょ、みたいな感じなので、冷静を装いながらも必死でした」。 スカウトと聞くと選手を発掘することだけが仕事のようにも思えるが、入団後のサポートも重要な役目となっている。「節目節目で応援してくれている人とお世話になった人へのあいさつはしっかりしろ、ということは伝えています。それ以外に関しては、あまり近寄ってもうっとうしいだろうから、距離感を保つようにしています」。 選手にとって、スカウトは夢舞台へと導いてくれた恩師のような存在。スカウトも“我が子”のように成長を見届け、引退後も関係性が続いていく。グラウンド内で築く絆とはまた異なるものが両者の間に生まれている。 10月に行われた今年のドラフト会議では、岳野氏が担当した狩生聖真、林冠臣、龍山暖の3選手が支配下での指名を受けた。今後もたくさんの“我が子”の成長を見届けることになるだろう。
中村彰洋