感動のラスト…NHKドラマ『かぞかぞ』が最後に紐解いた錦戸亮”耕助”の物語とは? 最終回考察
亡き父・耕助の物語
『かぞかぞ』が最後に紐解くのは、亡き父・耕助の物語だ。初めて芳子たちに挨拶した日、急に仕事が入った沖縄旅行当日、草太(吉田葵)が生まれた日、草太の将来を心配したひとみ(坂井真紀)と言い合いになった日、そして、ソファーに倒れ込んだまま起き上がれなくなったあの日。 耕助の幻は見る人によってさまざまな姿で現れてはいたが、耕助自身の魂は、ソファーに倒れ込んだあの日からずっと、部屋の片隅にとどまっていたのだ。 ひとみは楽しかった沖縄旅行の記憶の中で「あたしら頑張ったよな」「耕助は頑張りすぎた」と伝え、申し訳なさそうに佇む夫を「ええよ、耕助」と優しく送り出す。七実もまた、耕助の幻がとどまるあの場所で「よう頑張ったよな」と父の頭を撫でた。 それはかつて、自分を無理やり奮い立たせるために「大丈夫」をひたすら唱えていたあの時の七実が一番欲しかった言葉。山あり谷あり波瀾万丈な岸本家の物語は、ある日突然途絶えた耕助の人生を家族が肯定できたことで、ようやくハッピーエンドにたどり着いたのだと感じた。
「見とけよ世界、この家族と笑いつづけてやる」
大好きな家族を残して早くに亡くなった耕助を、“不幸”と憐れむ声もあるかもしれない。だからこそ七実たち家族は「頑張りすぎた」「よう頑張ったな」と言いながら、耕助から“不幸”のレッテルを剥がしていく。一方的に“悲劇”とラベリングした世間に対し、圧倒的な文章力で抗おうとした、かつての七実の姿が重なった。 そう、『かぞかぞ』は、岸本家が心無い偏見を一方的に向けてくる世間と戦う物語でもあったのだ。買い戻したボルちゃんは、父の死に縛られながら生きていくという意味ではない。父の想いも思い出も全部抱きしめて、自らの人生を歩んでいくことを選んだ七実の意志そのものだ。 そして七実は世の中に改めて宣戦布告する。「見とけよ世界、この家族と笑いつづけてやる」と。 愛おしくて、面倒くさくて、でもやっぱり愛おしい!そんな岸本家の物語を演じきった河合優実、坂井真紀、錦戸亮、吉田葵、美保純にあらためて拍手を送りたい。同じようで、同じではない。似ているようで、似ていない。愛と面倒くささが混在する繊細で複雑な “属”に、私たちは何度も頭を悩ませ、何度も助けられるのだろう。 そして家族に想いを馳せるとき、ふたたび思い出すだろう。赤いボルちゃんで駆け抜けた岸本家の物語を。 【著者プロフィール:明日菜子】 視聴ドラマは毎クール25本以上のドラマウォッチャー。文春オンライン、Real Sound、マイナビウーマンなどに寄稿。映画ナタリーの座談会企画にも参加。
明日菜子