『びんびん』シリーズ“気弱な榎本”のイメージに苦しんだ野村宏伸「真逆の薬ばかり選んだ時期もあった」 それでも「ここまで続けられたのは榎本のおかげ」と感謝
役はフィクション、役者はリアル──別物にもかかわらず、名演がゆえに役と役者が同一視されることがある。そんな当たり役に恵まれることは役者として幸運なことではあるが、時にそれが足枷になったりすることもある。誰もが知る当たり役を演じた名優が、そんな葛藤を経ていま思うことを明かす──。 【写真】『ラジオびんびん物語』の制作発表に登場する野村宏伸、トシちゃんの姿など
ドラマはヒットも、自分はこのままでいいのか悩んだ
「これはおれがやりたかった役じゃない──世間の評価と裏腹に、苦しい時期が続きました」 野村宏伸(59才)の当たり役、それは、1987年の『ラジオびんびん物語』(フジテレビ系)から始まった、ドラマ『びんびん』シリーズの榎本英樹。主演の田原俊彦とコンビを組む、気弱な後輩役だった。シリーズの中でも1988年放送の『教師びんびん物語』は最高視聴率24.9%を記録。野村もアイドル的人気を博すようになった。 「榎本はそれまで演じてきた役と真逆で、自分の性格とも違う。ドラマのヒットで現場は盛り上がっていましたが、自分はこのままでいいのか、悩みました」(野村・以下同) 18才のとき映画『メイン・テーマ』のオーディションで主演の薬師丸ひろ子の相手役に選ばれ映画俳優デビューした野村にとって、『ラジオびんびん物語』が初のテレビ出演だった。 「故・松田優作さんに憧れてこの世界に入ったこともあり、映画で活躍してこそ俳優、と思っていたんです」 ところが、榎本役で知名度が上がり、テレビの仕事が激増した野村に求められるのは“気弱な榎本”。 「役者としてイメージが固まるのはまずいと、悪人など真逆の役ばかり選んでいた時期もありましたが、払拭できませんでした」
『とんび』の僧侶役で気合を入れて頭をそった
収入は大幅に増えたが、知人に騙され、大金を失った。役にこだわりすぎて仕事も激減。40代までは公私ともに波乱が続いた。 「そんなとき、ドラマの仕事をいただいたんです。2013年放送の日曜劇場『とんび』(TBS系)で、僧侶・照雲役でした。若い頃は丸刈りに抵抗があり、それが理由で役を断ったことも。でもこのときは、気合を入れて頭をそりました」 ドラマは好評を博し、野村の新たな代表作となった。 「後になって、このドラマのプロデューサーは『びんびん』シリーズが好きでぼくに声をかけてくれたと聞きました。榎本のイメージから抜けたくてもがいてきたのに、役をつなげてくれたのも、ここまで役者を続けられたのも榎本のおかげ。いまは感謝しています」 【プロフィール】 野村宏伸/1965年、東京都生まれ。1984年、映画『メイン・テーマ』で薬師丸ひろ子の相手役でデビュー。1987年のドラマ『ラジオびんびん物語』(フジテレビ系)から始まるシリーズで人気に。舞台でも活躍。 ※女性セブン2025年1月1日号
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