けいおん!/聲の形…高校生の物語の魅力とは? 映画「きみの色」山田尚子監督インタビュー「言葉で定義されないものを」
「映画 聲[こえ]の形」やテレビアニメ「平家物語」などを手がけた山田尚子監督の最新作「きみの色」(30日劇場公開)は、人の感情を「色」として受け止める天真らんまんな女子高校生トツ子が、美しい色を放つ同学年のきみ、きみが働く古書店で出会った少年ルイとのやりとりを通じて、他者との結びつき、自立、ほのかな恋心を獲得していく物語。長崎県の海山、都市を背景に、色彩豊かな映像が展開される。山田監督は「言葉で定義されていないもの」を念頭に、制作に当たったという。 「映画 けいおん!」「映画 聲の形」「リズと青い鳥」に続き、高校生を主人公に据えた。 「子どもから大人になっていく、体と心の成長がちぐはぐしている状態の年代。『入り口』『途中』というところに魅力を感じているんです」。人格が固まりきっていない世代の人物造形に魅力を感じるという。 あえて起伏を抑えた物語は、長崎市内のミッションスクールに通うトツ子が、きみとルイにバンドを組もうと持ちかける場面から小さな熱を帯び始める。3人は音楽で心を通わせ、かけがえのない友情を育む。山田の「高校生もの」に欠かせない吉田玲子の脚本は、最小限の言葉のやりとりで、3人の繊細な心の揺れを描ききる。 山田監督は「実は『色ありき』ではなく、バンドを組む人たちのお話をつくりたかった」と制作の端緒を明かす。「音楽、特にバンドを組んでいる人に憧れがあるんです。『好き』を共有することにも魅力を感じていて。私は楽器の演奏ができないので、作品をつくることで勉強できるという下心もあります」 「映画 聲の形」「リズと青い鳥」で組んだ牛尾憲輔が音楽を手がけた。高校生3人の作り出すオリジナル曲はどこか英国のニューウエーブの香りが漂う。劇中の重要場面では1990年代に一世を風靡[ふうび]したダンスミュージックの名曲「ボーン・スリッピー」のカバーだ。 「今はさまざまな媒体を通じて、いろいろな時代の音楽をフラットに受け入れられる」と山田監督。「過去のカッコいい音楽を今、カッコいいとして選び取る子は必ずいる。映画ではルイ君の音楽的嗜好[しこう]として描いています」 新旧の意匠を凝らした学校や教会の建築、そこに差し込む光と柔らかい影など、一つ一つの場面が絵画的に映る。百花繚乱[りょうらん]の中庭でトツ子が踊るシーンは息をのむほどの美しさだ。 「印象派の絵画のように、光の粒子を分解して描く雰囲気を目指した。映像の特性は音があって色があって時間があること。高校生の感情を含め、言葉で定義されていないものを映画全体で表現しています」
静岡新聞社