ヒット商品は「コンセプト×意外性」が8割…元・味の素マーケティングマネージャー直伝の“成功原則”
「つくれば売れた」時代は過ぎ去り、いまや「絶対に買いたいものはあまりない」時代。従来の考え方で商品を開発し販売しようとしても、かつてのようなヒットを望むことはできません。モノを売るには、今日において求められるマーケティングを考える必要があります。中島広数氏の著書『グローバルで通用する「日本式」マーケティング』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、ヒット商品を生むためのヒントを見ていきましょう。
ヒット商品をつくるための「ヒットの法則15原則」
ヒット商品をつくるためには、絶対の正解を求めるのではなく、「はじまりはいつも仮説」という姿勢で、自分たちなりに考え、試すことが大切です。実はこうしたことを繰り返すうちに仮説の精度は上り、成功をつかみやすくなります。 本連載では私がマーケターとして、「はじまりはいつも仮説」を繰り返しながら、経験的に身につけた「こうしたらもっと成功に近づきやすくなるのでは」を紹介させていただきます。私はそれらを「ヒットの法則15原則──成功の5軸×3原則」として体系化しています(図表1)。 本稿では、成功の軸「2.アイデアを具現化できる仕掛けがある」を見ていきましょう。
【成功の軸】アイデアを具現化できる仕掛けがある
前回記事 では商品コンセプトの大切さについて書いてきました。コストなども含めしっかりとした商品コンセプトがあって初めてヒット商品は生まれるわけですが、では「商品コンセプトさえ良ければ絶対にヒット商品は生まれるのか」というと、もちろんそうではありません。せっかく良い商品コンセプトをつくったとしても、それを商品として詳細に再現できなければただの「絵に描いた餅」ですし、その価値が伝わることはありません。 私が好きなアイス菓子の商品にロッテの『クーリッシュ』というものがあります。暑い日に食べる溶けかけのバニラアイスのおいしさ、日本人なら誰でも想像してもらえると思うのですが、どうやったらそのおいしさを、コスト制約の中で実現できるかには、開発・製造現場のさまざまな工夫が盛り込まれています。 製品開発にはたくさんの人が関わります。製品の設計によっては「つくりやすい」とか、「つくりにくい」もあります。そのため、どんなすぐれた商品コンセプトをつくったとしても、マーケターが現場のことを知らず、商品設計をしてしまうと、こうした「できるわけがない」「つくれやしない」が起きることになります。 ロッテの『クーリッシュ』は微細氷の製造に関する特許と、微細氷をほぐれやすくする技術の特許を取得しているそうです。また、TVで工場見学を特集する番組で拝見したのですが、「溶けやすさを均一にするために、夏と冬ではアイスに入れる微細氷の大きさを変えている」と、現場の担当者が語っていました。 ちょうどよい「溶け頃」「食べ頃」を具現化するさまざまな工夫。これがあるからこそ、持ち歩けて、いつも美味しく食べられる「飲むアイス」が実現されたわけです。 ジョブズであれば、どんな反対があろうと、仮にコストがかかろうと、具現化がむずかしかろうと、「この通りにやれ」と言うかもしれませんが、たいていの場合、「できるわけがない」「つくれやしない」の前に妥協を余儀なくされます。最終的には「コンセプトはともかく、現実には難しいね」となってしまうのです。 そうならないためにマーケターには「アイデアを具現化する力」が求められ、開発現場や、製造現場のノウハウにも詳しくある必要があります。これを「成功の軸」の2つめ、「実現性確信度」と呼びますが、ポイントは3つあります。 原則4 戦略は細部に宿る=細部にまでコンセプトの良さが感じられる 原則5 頭を使って気を遣う 原則6 お客さまの期待を裏切る驚きを込める コンセプトがいくら素晴らしくても、それを詳細に再現できなければ価値は伝わらない、と痛感したのは私がまだ味の素にいた若い頃のことです。 『クックドゥ』のパスタ版とも言える『パスタドゥ』という商品を担当した私は「アラビアータ」という辛いトマトソース用に小袋に入った唐辛子を別添にして販売しようとしました。ソース自体も十分辛いのですが、もっと辛いのを食べたい人は「この小袋を入れてください」という設計です。消費者が好みで調整できるという点ではいいアイデアなのですが、私が生産現場に足を運んだところ、製造部長から「お前の『パスタドゥ』をつくっているから、ちょっと来い」と呼ばれました。 呼ばれて行くと、包装ラインの所に五人の人がいて、一人が小袋を載せ、一人がラインを流れる時にそれが落ちないかを確認して、最後に別の一人が再度落ちていないかを確認するという作業を繰り返していました。製造部長は私にこう言いました。 「お前たちが小袋を別添にしたらもっと売れると言うからやっているが、本当に必要なのか?」 私はその場でこう答えました。 「すぐにやめます。来週、会社に出社したら廃止を決めて、新しいコンセプトをつくり直します」 たとえ自信のある商品コンセプトであっても、製造現場の人たちに過度の負担をかけるようでは意味がありません。ジョブズのように「これは絶対に外せない」と言うほどのものがあればともかく、「本当に必要なのか?」と言われて、本人さえ「なくてもいい」というほどのものにこだわる必要はありません。 マーケターの役割の1つは優れたコンセプトをつくることですが、それを実現してヒット商品につなげるためには、生産現場などの細部を知り、細部にこだわり、頭を使って、気を遣って、人に気持ちよく動いてもらうことも大切なのです。