ヒット商品は「コンセプト×意外性」が8割…元・味の素マーケティングマネージャー直伝の“成功原則”
戦略は細部に宿る
このようにマーケティングにおいては商品のコンセプトがしっかりできれば50%くらいの成功が期待できますし、そこに期待を裏切る驚きが加わることで、さらに30%の上乗せが期待できます。 つまり、80%の確率で成功するわけですが、こうした取り組みを一瞬にしてダメにする「真実の瞬間」があるということもマーケターは頭に入れておく必要があります。1980年頃、経営が悪化したスカンジナビア航空を再建したヤン・カールソンが大切にした言葉で、特にサービス業ではとても大切にされた考え方です。 航空会社の評価は売上や利益、規模の大きさももちろん大切ですが、どんな航空会社でもサービスに不満があると、やがてはユーザーが離れることになります。カールソンはお客さまがチケットを購入し、飛行機に乗り、機内でのサービスを受ける、その1つひとつの時間はごくわずか(平均15秒)であっても、その1つひとつの印象がお客さまに刻み込まれ、それが「また利用してみたい」という行動につながると考えました。 そこで、社員にビジョンを伝え、社員に権限を与えた結果、同社は83年には『フォーチュン』が選ぶ「ビジネス旅行客にとって世界最高の航空会社」となったのです。これはサービス業だけでなく、メーカーにも言えることです。 フィリップ・コトラーに「ブランドを広告するのではなく、ブランドを体現せよ」という言葉があります。たとえば、テレビや新聞で広告された商品を買いに行ったら、店には品切れで置いてなかったり、店頭に薄汚れた製品しか置いてなかったらどうでしょうか。満足度ナンバーワンを謳うホテルに泊まったら、対応があまりに無愛想だった、あるいは一流の和食店に食事に行ったところ、出されたおしぼりが妙に臭かったとしたら、それだけでブランドへの信頼は崩れてしまうのです。 アマゾンの創業者ジェフ・べゾスは創業に際し、とことん気を配ったのはサイトの使いやすさと、配送の素早さ丁寧さでした。理由は実店舗を持たないアマゾンにとって、お客さまと接する場所はサイトと、配達だけであり、この2つで期待を裏切ったならアマゾンの成功はないと知っていたからです。 私がマーケティングの成功原則の1つに「戦略は細部に宿る」を挙げているのは、商品開発における緻密さと併せ、こうしたブランドを体現する「真実の瞬間」も大切だと感じているからです。もちろんマーケターがこれらすべてに目を配ることなどできませんが、ブランドを築き上げるには長い時間がかかるけれども、崩れ去るのは一瞬であるということを頭に置いておくのもマーケターにとっては大切なことなのです。 中島 広数 freebee株式会社 代表取締役 元・味の素マーケティングマネージャー 1998年から2018年まで味の素株式会社にて海外事業・海外営業・国内外マーケティング業務に従事(中国に4年間、タイに2年間の駐在経験有り)。2011年には「Cook Do」事業担当となり、5年間の担当期間中に「Cook Do きょうの大皿」の事業開発を含めたロングセラーブランドのリ・ブランディングによる大幅事業拡大を手がけた。 2018年に味の素社を卒業し、事業コンサルティング・新事業/新商品開発・マーケター人材育成を主業務とするfreebee株式会社を創業・代表取締役に就任。現在6期目。日本語・英語・中国語・広東語の4ヵ国語話者。
中島 広数