親が家庭で「先生の悪口」を言うことが、じつは「子ども自身の大きな不利益」になるワケ
日本は今、「人生100年」と言われる長寿国になりましたが、その百年間をずっと幸せに生きることは、必ずしも容易ではありません。人生には、さまざまな困難が待ち受けています。 【写真】じつはこんなに高い…「うつ」になる「65歳以上の高齢者」の「衝撃の割合」 『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)では、各ライフステージに潜む悩みを年代ごとに解説しています。ふつうは時系列に沿って、生まれたときからスタートしますが、本書では逆に高齢者の側からたどっています。 本記事では、せっかくの人生を気分よく過ごすためにはどうすればよいのか、『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)の内容を抜粋、編集して紹介します。
イジメと学級崩壊
私が小学生のころには、イジメという概念はありませんでした。いじめっ子はいましたが、さほど悪質なものはなく、子ども同士の緊張関係、試練、意地悪などの範囲に収まっていました。 私自身も小学四年生のときに、好きな女の子に関する秘密をいじめっ子のFに握られ、ことあるごとに「あれを言うぞ」と脅されて、長い間、服従を強いられました。Fがいなくなればいいのにと、何度思ったことかしれません。 イジメが社会問題になったのは、不登校やひきこもり、さらには自殺にまで至る子どもが出てきたからでしょう。イジメの内容としては、悪口を言う、笑いものにする、仲間はずれにするなどの精神的なものから、殴る、蹴る、プロレス技をかけるなどの身体的なもの、さらにものを隠す、汚いものを机に置く、金品を要求する、葬式ごっこをするなど陰湿で悪質なものまであります。 からかいやいじりは、やっているほうは軽い気持ちでも、やられているほうが傷つく場合があり、イジメの線引きはむずかしい面があります。 イジメの被害者は守らなければなりませんが、頑張ってイジメに打ち克つことができれば、精神的なタフさを養うことにもなります。 小学校の教諭をしている親戚に聞くと、以前はある程度の継続性がなければイジメとは認定されなかったのが、最近では一回でも当事者がいやな思いをしたらイジメとみなされるそうです。そのため、報告業務が増えてたいへんだと話していました。 学級崩壊も私が小学生のころには耳にしたことがありません。授業中、おしゃべりをすれば注意され、注意されたら静かにするのが当たり前でした。ましてや授業中に歩きまわるとか、教室から出て行くなどすれば、みんなが唖然としたでしょう。それくらいあり得ないことでした。 学童期の子どもは、低学年のときには先生や親を全知全能と感じるので、教えたことに従いやすいですが、高学年になると大人に対する不信や反抗心が芽生えます。それは自立への道筋でもあるのですが、教諭に対する疑念や見くびりなどが生じると、子どもは言うことを聞かず、先生が怒るのを面白がるようになったりします。その状況では、反抗する子どもは制御不能となり、学級崩壊を止めることもむずかしくなります。 学級崩壊を引き起こす子どもは、学業についていけないことを恐れているので、授業を妨害して、ほかの子どもの学力を貶めて安心しようとする側面があります。 子どもが先生の言うことを聞かなくなる大きな要因として、親が家庭で先生の悪口を言うことがあります。子どもがそれを聞いて、先生に対する敬意を失うのです。担任や学校に不満があっても、子どもの前ではそれを抑えないと、自分の子どもが不利益を蒙ることにつながります。 さらに連載記事<じつは「65歳以上高齢者」の「6~7人に一人」が「うつ」になっているという「衝撃的な事実」>では、高齢者がうつになりやすい理由と、その症状について詳しく解説しています。
久坂部 羊(医師・作家)