映画『バティモン5 望まれざる者』:フランスの闘う監督、ラジ・リが描き出す移民の町の不都合な真実
映画を通じて一貫して伝えたいこと
パリ五輪が近づき、憧れの都の華やかさにばかり光が当てられがちな2024年。この“不都合な映画”が公開されることには意味がある。しかしフランスの置かれた状況を日本の観客がどこまで理解できるのだろうか。横浜フランス映画祭での反応について聞いてみた。 「距離があるのは確かだけど、日本の観客はとてもよく理解してくれたと思う。上映後の質疑応答では、中身の濃い、素晴らしい議論が生まれた。日本人は内気で遠慮深い印象があったけど、次々に手が挙がって驚いたよ。日本も移民が増え始めて、似た状況になりつつある。移民をめぐるさまざまな問題は、まだほんの始まりに過ぎない。これは避けて通れないことだ。移民の受け入れに関して、何がよくて、何がうまくいっていないか、フランスのような国の例をしっかり知っておくべきだろう」 恵まれない若者に無償で映画作りを教える活動も行っているラジ・リ。モンフェルメイユ、マルセイユ、ダカール(セネガル)、グアドループに映画学校を開設したのに続き、現在ニューヨークに5校目の準備を進めているという。 映画を撮るのは、4年に1度と決めている。三部作のフィナーレを飾る次作は、1990年代へとさかのぼる物語だ。これまで警官、政治家を描いてきたが、今度は「また別のキャラクター」。毎回、五輪の開催とほぼ並行するようにして世に問うのは、大都市の陰に隠された郊外の町の“不都合な真実”だ。 「私の映画作りの目的は最初から一貫して変わらない。自分たちの町がずっと馬鹿にされ、負の烙印を押され、非難されてきた。そういう見方を変えたいということだ。郊外を取り巻く状況はますます壊滅的だけど、よくなると信じるのをやめてはならない。それには闘い続けることだ。私には映画を作り続ける以外にできることはない。魔法の杖なんてどこにもない。目撃し、証言し、告発する。それだけだ」 取材・文:松本卓也(ニッポンドットコム)