兵庫県知事“パワハラ疑惑”騒動広がるも辞職を否定… 住民の手で「辞めさせる」方法は?
兵庫県知事の「パワハラ疑惑」が物議を醸している。県職員2名が死亡するという異常事態に至り、批判が強まっているなか、知事は辞職を否定している。たとえば、もし住民が、知事を辞めさせたいと考えた場合にどのような法的手段をとりうるのだろうか。 【図表】首長が住民投票で解職された事例(2000年代)
住民の手で首長を強制的に辞めさせる「リコール」の制度
まず、住民が首長を強制的に辞めさせる制度がある。いわゆる「リコール」の制度である(地方自治法13条2項・81条・83条)。 有権者のうち一定割合の人数の署名を集め、選挙管理委員会に「解職投票」を請求することができる。そして、有効投票総数の過半数が賛成すれば、首長は解職となる。 この、住民のきわめて強力な権限は、地方自治に特有のものである。なぜ、リコールの制度が認められているのか。市議会議員の経歴があり地方自治制度に詳しい三葛敦志弁護士に聞いた。 三葛弁護士:「地方公共団体の長のリコールは、憲法の『地方自治』に関する規定(憲法92条~95条)を根拠としています。 その背景には、地方自治は国政よりも身近なところにあるべきだという発想があります。 つまり、国政が国全体の課題を扱うのと異なり、地方公共団体では、その地域の住民の生活に密着した共通の課題を扱います。したがって、そのような課題については住民自身に決めさせるのが望ましいという考え方がとられているのです。 この考え方を『住民自治』と言い、リコールの制度は住民自治のあらわれです」 ただし、解職投票を要求するための署名数の要件は厳しい。自治体の有権者の総数に応じて以下の通り定められている(地方自治法81条1項)。 【自治体の有権者数ごとの署名数要件(有権者総数=Xとする)】 ①X=40万人以下:X×3分の1 ②X=40万人超~80万人以下:40万人×3分の1+(X-40万人)×6分の1 ③X=80万人超:40万人×3分の1+40万人×6分の1+(X-80万人)×8分の1 つまり、有権者総数30万人ならば10万筆以上、有権者総数100万人ならば22万5000筆以上の署名が要求されている。 兵庫県の2024年6月1日現在の選挙人名簿登録者数は2,130,969人である(兵庫県発表)。この数字から計算すると、リコール請求を想定した場合には36万6372人以上の署名が要求されることになる。 この数を集めるのは至難の業である。近年では、愛知県知事のリコール署名で、名古屋市長や著名人らが大々的に呼びかけたにもかかわらず署名数が集まらず、多数の署名が偽造された事件が記憶に新しい。 なぜ、首長のリコールの要件は厳格に定められているのか。 三葛弁護士:「議会の多数派が気に入らない首長を辞めさせることを防止するためです。 すなわち、地方自治制度では、首長と議会の二元代表制がとられています。 ところが、議会の多数派がリコールの制度を利用すると、反対派・少数派の抑圧に結び付くおそれがあります。それは、住民自治の観点からあってはならず、健全な地方自治にとってきわめて危険なことです」