「取り損ねたのが見えて、渡さなきゃって」マラソン“あの給水アクシデント”を救った加世田梨花が明かす本音…レース後にあふれた“涙の理由”
今年3月、パリオリンピック出場枠を争う“最後の舞台”となった名古屋ウィメンズマラソンで、ひとりのランナーが注目を集めた。加世田梨花(25歳)はなぜ、五輪を目指すライバルに手を差し伸べたのか。インタビューで加世田本人が打ち明けた本音とは――? 《NumberWebインタビュー/全3回の初回》 【写真】「本当に素晴らしい!」SNSで反響を呼んだ“給水ボトル手渡し”実際の写真。女子マラソン・加世田梨花(25歳)の人柄が伝わる名場面写真に、Numberフォトグラファーが撮り下ろした特別フォト。この記事の写真を見る。 困っている人を見かけたら、放ってはおけないタイプなのだろうか。 そう問いかけると、加世田梨花は少し困ったような笑みを浮かべた。 「どうですかね。あまりそういうシチュエーションになったことがないので……。でも、あの時は自然とそうなったというか、気づいたら給水を手渡してました」 彼女の人間性に注目が集まったのが、今年3月に開催された名古屋ウィメンズマラソンでのひとこまだった。 オリンピックを目指す最大のライバルに、惜しげもなく力水を手渡す。給水時の心温まるシーンを覚えている人もいるだろう。詳細を振り返れば、こんな場面だった。
パリ五輪“最後の一枠”を争う大会でのアクシデントだった
レースはパリオリンピックの女子マラソン日本代表を決める最後の一枠の選考を兼ねていた。優勝候補の一人が、昨年の世界陸上に日本代表として出場した加世田で、実績などから鈴木亜由子(JP日本郵政グループ)と安藤友香(ワコール)を含む三つ巴の争いになることが予想されていた。 アクシデントが起きたのは、10kmの給水ポイントである。 加世田の前を走る鈴木がスペシャルドリンクを取り損ねる。続くゼネラルの給水にも2度失敗し、大事な水分補給ができなかった。 テレビ画面越しに見ても、鈴木はあきらかに落胆したように見えたが、そこに手を差し伸べたのが加世田である。わずかにスピードを上げて横に並びかけると、ためらうことなく自らの給水ボトルを差し出したのだ。
加世田が明かす当時の心境「自然と渡さなきゃって」
この姿を見たテレビ解説者の有森裕子さんは「本当に素晴らしい」とスポーツマンシップを絶賛。ゲストの高橋尚子さんも「最後の一人を狙う厳しいところで、渡すこともそうなんですけど、なにより鈴木亜由子さんが取れていないことをしっかりと見えている。その視界の広さと落ち着き感が非常に良いと思います」とレース巧者ぶりに賛辞を送った。 だが、加世田にとっては、取りたてて逡巡するようなことではなかったようだ。 「ちょうど亜由子さんとスペシャルドリンクのテーブルが同じで、私が後ろのポジションだったこともあって、取り損ねたのは見えていたんです。自分はスペシャルドリンクも、その後のゼネラルも両方取れたんですけど、亜由子さんはゼネラルも取れなかったみたいで……。じつは私も過去に何度か給水で失敗したことがあるんですけど、給水が取れないとけっこうメンタル的にきつくなるんですね。だから、自然と渡さなきゃって」
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