「取り損ねたのが見えて、渡さなきゃって」マラソン“あの給水アクシデント”を救った加世田梨花が明かす本音…レース後にあふれた“涙の理由”
「一緒に頑張ろう、という気持ちがあった」
そのとき思い返していたのは、世界陸上に出場した際のことだった。8月のブダペストは暑く、レースは集団で進んだ。中ほどに位置していた加世田は給水が取れなかったが、その時に手を差し伸べてくれたのがダイハツの先輩である松田瑞生だった。選手は勝ち負けを競うライバルだが、共にマラソンに挑む仲間でもある。先輩にはそう教わった、と加世田は考えている。 「あの時、私は脱水症状気味で、水を飲むことさえなんか気持ち悪い状態でした。せっかく渡してくれたのに、『大丈夫です』って断ってしまったんです。今でもそれはいじられるんですけど(笑)、取れなかった仲間がいたら自然と渡すもの。私もそうあるべきだと思っていて。だから名古屋の時も、一緒に頑張ろうという気持ちはあったと思います」 レースは後半、加世田と安藤が日本人の先頭を争う状況に。しかし、33km過ぎに安藤がスパートすると、加世田はそれについていけなかった。終盤になると鈴木にもかわされ、結果は4位。パリ五輪の女子マラソン日本代表3人目は、優勝した安藤もタイムで及ばず、1月の大阪国際女子で日本記録を更新した前田穂南(天満屋)に決まった。
レース後にあふれた“涙の理由”
目標だったオリンピックには届かなかったが、レース自体に悔いはない、と加世田は話す。 「マラソンは4回目だったんですけど、今までで一番不安要素がなく迎えられた大会で、自分の力は出し切れたと思ってます。その上でまだまだ力が足りなかった。悔しいけどやりきったという気持ちで今はいますね」 ゴールした瞬間、両手で顔を覆い、あふれでる涙を拭ったようにも見えたが、悔しさだけではなかったという。 「マラソンってなんか、ゴールしたら一度自分を認めてあげたくなるんです。日本記録を狙ったハイペースの中で、あの長さを最後まで走りきった。最後はぜんぜん体が動いていなかったけど、ゴールまでたどり着けた。長い時間準備して、プレッシャーもある中で、厳しい練習はやってこられたので。課題も見えたけど、伸びしろも感じられた。そういう色んな感情があふれた涙でした」 オリンピック――。加世田が世界を意識するようになったのはいつ頃からだろうか。《インタビュー第2回に続く》 (撮影=杉山拓也)
(「オリンピックPRESS」小堀隆司 = 文)
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