復活する多摩川のアユ(1)2016年の推定遡上数は463万尾
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水質の悪化などによって減ってしまった多摩川のアユが復活しつつある。2016年の推定遡上数は、前年よりも28万尾増の463万尾。調査を実施している東京都島しょ農林水産総合センター振興企画室の高瀬智洋主任研究員は、「引き続き、高水準で東京湾から多摩川に遡上しています」と評価する。
「死の川」とまで言われた多摩川
山梨県にある笠取山を水源地として、山梨県から東京都の西部、そして東京都と神奈川県の県境を流れて東京湾に注ぎ込む多摩川。かつては、アユの川として流域の人々に親しまれ、上流域の山梨県丹波山村までアユが遡上したという伝承も残る。 しかし、時代が進むにつれてアユの遡上を妨げる取水堰が増えたほか、1960年代に入ると、流域の人口増にともなって生活排水も増加して水質が悪化。「死の川」とまで称されるようになった多摩川で、アユの遡上はほとんど見かけることができなくなってしまった。 ちょうど、高度経済成長の負の側面と言える公害問題が関心を集めていた時代。「公害国会」とも称された1970年の国会では水質汚濁防止法が制定され、下水道の普及率向上を含めて、失われた水環境を再び回復させる取り組みにようやく力が入りはじめた。 多摩川で、当時の東京都水産試験場(現在は東京都島しょ農林水産総合センター)によるアユの遡上調査がはじまったのは1983年。流域の住民から「アユが遡上していた」との指摘があり、東京湾にはすでにかなりの量の稚アユがいるのではないかと推察されたため、調査の実施が決まった。 初年度となった1983年は、推定遡上数18万尾だった。その後、1985年から1989年までは10万尾を割り込む年が続いたが、翌1990年には50万尾と数十万尾台を回復。そこから2005年までは、一部の年で100万尾台となったものの、長らく数十万尾台が続いたが、2006年には128万尾と100万尾台を突破。2010年までは139~215万尾で推移した。 顕著に増えたのは、2011年の783万尾。翌2012年は1194万尾とはじめて1000万尾を突破した。その後は2013年から2016年まで、435~645万尾で推移している。 高瀬主任研究員によると、2011、2012年で急激に増えた理由は特定できていないが、水質の改善や、取水堰におけるアユの遡上を可能にする魚道の整備、産卵地の造成など流域の漁協によるアユ増殖に向けた取り組みなど、複数の要因が考えられるという。