復活する多摩川のアユ(1)2016年の推定遡上数は463万尾
下水道の普及などにより、水質は改善傾向に
水質は、多摩川流域の下水道の普及率が上がるにつれて改善傾向にある。1971年の下水道普及率は19.9%だったが、そこから1981年には50%を、1993年には80%を超え、2014年の段階では99.2%とほぼ行き渡った。 一方、水の汚れ具合を示すBOD(生物化学的酸素要求量:水の中の有機物を分解するために必要な酸素の量)は1971年度末から1981年度末まで、悪臭を放つとされる10mg/lを超える年もあった。その後、1983年度末から1995年度末までは5.4~9.0mg/lと10mg/lを超える年はなくなり、1997年度末以降は5mg/l未満を、2003年度末以降は3mg/l未満を維持している(いずれも多摩川原橋付近のデータ)。 加えて、下水処理施設の処理能力の向上や、リンや窒素といった植物プランクトンの栄養となる物質を除去する高度処理設備の増強なども、水質の改善に好影響を及ぼしているものと見られる。 魚道は、1991年(平成3)に当時の建設省による「魚がのぼりやすい川づくり推進モデル事業」のモデル河川に多摩川が選ばれて以降、四谷本宿堰や羽村用水堰など、流域の堰に相次いで設置された。調布取水堰については、アユの遡上時期に合わせて堰を倒して上流と下流を行き来しやすくしているという。ただ、東京都は多摩川中流のアユを捕獲して陸路で運搬、上流に放流する事業も行っており、アユを含む魚が遡上しやすい環境作りは、いまだ道半ばと見られる。
ともかく、「死の川」と呼ばれた多摩川が、いまや数百万尾のアユが遡上するまでになったのは、自然の生命力の強さを感じさせるが、同時に、ここまで環境が改善するのに40年以上もかかってしまっている点も心に留めたい。1970年に、白い泡が浮かぶ多摩川で元気に遊んでいた小学生は、いまや皆50歳以上。それほど時間がかかる。 高瀬主任研究員によると、アユの遡上調査は今後も続ける方針で、「都民からの関心も高く、今までは遡上調査を公開してきませんでしたが、今後は見学要請にも可能な範囲で対応する方向で検討を進めています」という。アユの遡上調査が、自然環境の大切さを伝える場になるならば、一石二鳥といえる。 (この回続く) (取材・文:具志堅浩二)