日本人の手で新しい日本を 失われた30年でついた差は大きい バランスよい規制緩和を 話の肖像画 元駐米日本大使・藤崎一郎<29>
《最終回になった。今の日本について言いたいことは》 最後の回なので遠慮なく思いつくままを話す。若い人と話すとみな、日本は変わらねばならないという。失われた30年で世界とついた差が大きい、規制緩和が進まなければならないという。しかしバランスが必要だ。相撲以外の格闘技はたいてい重量制を設けている。規制がなくなれば大きく強い者が有利になる。シャッター街が増えたのは米国の要求もあり、通称大規模小売店舗法の規制がなくなってからだろう。 世界で右傾化が進む背景は不平等感だ。米国などは1990年にはトップ0・1%が国富の1・8%を持っていたのが、2023年にはなんと18%だ。この轍(てつ)を踏まないよう相続税、累進課税などの税制をしっかり維持することが大事だ。富裕層が外国に逃げ出して税収が減ってしまうなどと懸念する者もある。そういう懸念のために国の基本を崩していいだろうか。 また日本は明治維新以来、低学費の国公立の教育をハイレベルに維持することで有為な人材を育ててきた。これも維持すべきだ。外国に行って帰るといつも日本の暮らしやすさに感嘆する。私はアカセキレイ(安全、確実、清潔、規律、礼節の頭文字)と呼んでいる。 《今のままでいいと言うのか》 単に今のまま維持すればいいと言っているのではない。日本を強くするために、新しい産業政策の一環として本格的なシリコンバレーを官民協力してつくるべきだ。シリコンバレーにならってコンピューター、机は使い放題、成功したインストラクターがボランティアで指導する。毎月、アイデアコンテストをやり、上位入賞者には企業から引きがある。生活費も一部支援される。 すでに大学や地方自治体単位でやっているかもしれないが、国全体としてしっかりした体制をつくるべきだ。ベンチャーに進む人が増えている今、こうした基盤ができればと思う。 また研究者が海外流出してしまわないよう研究費増などの対策も急務であろう。 《外国支援に関し、何か新しい考えはあるか》