「製麺所の風情を手放したら丸亀製麺ではなくなる」トリドールHD粟田社長が語る“二律両立”の経営とは?
一軒の焼き鳥屋から始まり、「丸亀製麺」の大ヒットから東証プライム上場を果たしたトリドールホールディングス(HD)。今や国内外に約20の飲食ブランドを持つまでに成長したグローバルフードカンパニーは、なぜ次々と繁盛店を生み出せるのか。本連載では『「感動体験」で外食を変える 丸亀製麺を成功させたトリドールの挑戦』(粟田貴也著/宣伝会議)から、内容の一部を抜粋・再編集。「外食は最も身近なレジャー」をコンセプトに快進撃を続けるトリドールの戦略ストーリーと、成功の源泉とも言える独自の経営論について、創業社長・粟田貴也氏が自ら明かす。 第2回は、製麺所の風情を生かした特有の店舗設計をはじめ、各店で何もかも手づくりするオペレーションなど、セントラルキッチン化の真逆を行く非合理なチェーン展開に丸亀製麺がこだわる理由を探る。 ■ チェーン展開に潜む標準化の罠 体験価値は店づくりから始まります。丸亀製麺の店舗は、ひと目見て「丸亀製麺だ」とわかるように統一したイメージで作られています。細部にいたるまで、丸亀製麺の世界観を反映しているのです。 入り口付近にあるのは、小麦粉の袋に製麺機、うどんを茹でる釜です。入店してすぐ製麺のシーンやうどんを湯がくシーンが目に飛び込んでくるよう、うどんの切り出し機の位置や釜を置く台の高さなどを細かく調整しています。麺は小麦粉と水と塩だけを使い、店内で製麺します。生地を1日寝かせるための熟成室もお客様に見える場所に設置するようにしています。 切り出したうどんは小分けにして15分から20分ほど茹でます。お客様のオーダーに合わせて、釜揚げうどんならば釜揚げ用の桶に移します。かけうどんやぶっかけなどのだしで食べるうどんであれば、水で締め、その様子もしっかり見えるようにしています。肉系のうどんであれば、肉を焼く調理もお客様の目の前で行います。 その隣には、天ぷらとおむすびのコーナー。売れ行きを見ながら、リアルタイムで天ぷらを揚げ、おむすびを握ります。すべて視覚や嗅覚など五感で楽しめるオープンキッチンになっているのです。天ぷらはできるだけ揚げたてを召し上がっていただきたい一方で、さまざまな天ぷらが並んでいる様子が食欲をそそるため、こまめに揚げて並べるようにしています。 薬味はセルフサービスで取れるようにし、だしも店で1日6回ほど引いています。お客様が多い店舗では、それ以上引くこともあります。だしはすぐに風味や香りが飛んでしまうため、1日分を作り置くことはできないのです。調理の部分だけでも、チェーン店とは思えない非効率なオペレーションであることが、おわかりいただけますでしょうか。 自分の考えた業態が全国に広がって、たくさんのお客様に料理を食べていただける。これは、飲食店経営をしている人にとっては夢の一つだと言えるでしょう。 しかし、チェーン化には標準化の罠があります。個人店で繁盛している店がチェーン化する際、店が増えるにつれて人気が落ちていくのを見たことはありませんか。それは希少価値が薄れたことよりも、標準化することでその店の強みが失われるからではないか、と私は考えています。