「製麺所の風情を手放したら丸亀製麺ではなくなる」トリドールHD粟田社長が語る“二律両立”の経営とは?
チェーン展開する時は、オペレーションやメニューを効率的・画一的にしていくことを求められます。その過程で、お客様の考える「これがある・ここがいいからこの店に行く」といったその業態の強みが薄まってしまう、あるいはなくなってしまうのでしょう。 逆に言えば、一番の強みを手放さなければ、いくら店舗が増えても人気であり続けられると思います。その強みが何であるのかで、どれだけ多店舗化できるかが決まるのです。もしその店の強みが「シェフの人柄がいい」「歴史ある店舗の風情が素敵」など、人や物件そのものによる場合は、チェーン展開は難しいと考えられます。 丸亀製麺の強みは、製麺所の風情を感じながら打ち立て・茹でたてのうどんが食べられるという体験価値です。それを手放したら、お客様は来なくなり、自分たちは丸亀製麺ではなくなってしまう。そんな危機感を常に抱いています。 仮に丸亀製麺が店内製麺をやめて工場で大量生産した冷凍麺を使用したら? 茹で釜を無くしたら? これらの施策は、調理時間の短縮や水道光熱費のコストカットにつながります。現在の冷凍技術であれば、かなり状態の良いうどんを出すこともできるでしょう。でも、それでお客様はいらっしゃるでしょうか。私はそうは思いません。 製麺機などの設備投資、茹でる湯を沸かしたり水でうどんを締めたりする水道光熱費などのランニングコスト、すべて手作業にすることによる人件費や教育投資費の増加…効率やコストパフォーマンスが悪く見えるようなことでも、体験価値を生み出すためにやっているのです。店づくりの段階からかけてきたコストは来店動機につながっていると考えています。 私もこれまで多店舗化についてはさまざまなアドバイスを受けてきました。その多くが効率化・簡略化に関するものでした。しかし私は、効率化が先ではないと考えています。たくさんのお客様が来てくださることで、収益が上がり、多店舗化できるのです。非効率だと言われても、お客様の感動を生み出す部分は省略したらいけないと肝に銘じています。