LiLiCo ×よしひろまさみち が「サーチライト・ピクチャーズの“過去・現在・未来”」を語る [ 設立30周年記念特集 #02 ]
人々の記憶に残る数々の名作を作り続けて、アカデミー賞®作品賞に5度輝くサーチライト・ピクチャーズが、2024年で設立30周年を迎えた。 20世紀フォックスが立ち上げ、今はディズニーの傘下となったサーチライト・ピクチャーズのこれまでを振り返り、その価値、強み、心に残る作品たち、さらにこれからのサーチライト・ピクチャーズに寄せる期待を、映画コメンテーター のLiLiCo、映画ライターのよしひろまさみちの両氏に語っていただきました。 ・・・ サーチライトの作品~私のお気に入りラインアップ ――ここからは、お二人のお気に入りのサーチライト作品をあげていただけますか。 LiLiCo 30年分をあらためてチェックして、もちろん気に入った作品はたくさんあるのですが、順番をつけるのは難しいですね。まずは『ベッカムに恋して』(2002)です。 よしひろ うわあ、懐かしいな。 LiLiCo それで、おっ! と思って、そのあと『サーティーン あの頃欲しかった愛のこと』(2003)。2004年の『サイドウェイ』あたりから周りもこのレーベルを意識し始めてました。『綴り字のシーズン』(2005)、『サンキュー・スモーキング』(2005)、そして『リトル・ミス・サンシャイン』(2006)と続きます。 よしひろ 『リトル・ミス・サンシャイン』といえばですが、先日、『リトル・ミス・サンシャイン』の脚本家、マイケル・アーントの話をする機会があって改めてリサーチしたんですよね。実は彼はジブリの映画を観て一念発起して脚本家としてやり直したそうなんです。 ――うまくいかなくてもう辞めるつもりだったそうですね。それがたまたま高畑監督の『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999)を観た。 よしひろ なぜ山田くん?と思いますが(笑)、それを観て「いや、辞めたらダメだ。もう一回書くぞ」となったらしいです。 ――あれを観なかったら、『リトル・ミス・サンシャイン』も『トイ・ストーリー3』(2010)も生まれなかったということですよね。 よしひろ 『トイ・ストーリー3』のときに彼に話をうかがいましたが、やはりその話してたんですよ。『ホーホケキョ となりの山田くん』がそんなに影響を与えていたとは驚きです。 LiLiCo そして、一番好きな映画に必ず入れているのが『あるスキャンダルの覚え書き』(2006)。最近はなかなか観返す時間が取れないんですが、もう何度も観ました。リチャード・エアー監督はすごいよね。余計なシーンもなければ足りないシーンもない。しかもホラーより怖い女の心、あの映画はもう完璧な映画ですよ。すべての登場人物に共感もできて、そして最も怖い終わり方です。 『ウェイトレス ~おいしい人生のつくりかた 』も大好きな作品です。でも公開当時にこの作品がミュージカルになるなんて思わなかったし、ましてや日本でその主要キャラクターのうちの1人を私が演じるなんて思いもしなかった。そしてこの映画で監督を務めつつ、ドーン役を演じたエイドリアン・シェリーは公開前に殺されてしまったんです。私たちのミュージカルの舞台はちょうどコロナ禍の真っ最中でどこも舞台が大変な時でした。私はとにかく誰もコロナに罹らないように、毎日エイドリアンに祈っていました。天国から見守ってくれって。 よしひろ 休演しなかったんですか。 LiLiCo 途中、一度、子役の子が熱を出して、もうその場でPCR検査です。ダメかと思ったら、コロナではなく普通の知恵熱だったみたいで、とにかく千秋楽まで休演なしでできました。そのあと『JUNO/ジュノ』があって、『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)、『レスラー』(2008)と続きます。この映画をロングランにしたのは、「王様のブランチ」で私が大号泣をして紹介したからだと思いますね(笑)。そして『(500)日のサマー』(2009)。あれはエンディングがすごい。 よしひろ あれはずるい(笑)。『(500)日のサマー』で「すげー」と思ったのは、男目線の恋愛映画だったこと。それまで恋愛映画って、どこか女性のためのものという感じだったのが、あれは男性目線で描かれていました。「そうなんだよ、男だって悩むんだよ」と思いましたもん(笑)。だから、それ以降恋愛映画の、観た方がいいリストを上げる時には絶対入れてます。「またですか」って言われるけど、15年経っても男性視点の痛甘いラブコメ傑作ってまだ『(500)日のサマー』くらいしかないんですよ。 LiLiCo 『わたしを離さないで』(2010)を当時フォックスの試写室で観た時にはその前の広場で動けなくなりました。よしひろさんと意気投合して気に入ったのが『SHAME -シェイム-』(2011)。『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』(2012)もすごく好きです。よく、LiLiCoさんはどうしてそんなに明るく生きているんですかと聞かれます。その元気の源は何ですかと。もちろんいい映画をたくさん観ているということはあります。器が大きくなりますから。特にサーチライトの映画って人間再生の物語ではあるんだけれど、哲学的すぎないので誰にでも理解できる映画が多いんです。この『ハッシュパピー』の中ではお父さんが子どもに向かって「感じて生きろ」と叫ぶんです。これだと。毎日感じて生きていないから何も楽しいことがない、でも感じて生きていれば自分の中にハッピーがあることがわかる。 よしひろ そこに気づくことで、アンハッピーな時の対処もすぐにできるはずなんですよね。 LiLiCo そうなんですよ。あと、『イノセント・ガーデン』(2013)は音が素晴らしかった。 ここ最近の作品では、『gifted / ギフテッド 』(2017)、『スリー・ビルボード』(2017)、『ノマドランド』(2021)、『異人たち』(2023)、そして、『ネクスト・ゴール・ウィンズ』(2023) が面白かったですね。『異人たち』は、もし今観てわからなかったら、5年後にまた観てほしい。理解できなくてもいいの。それが、それまでどう生きてきたかということだから。これらが、サーチライトの中で特に心に残っている作品です。 よしひろ あと『ザ・メニュー』(2022)も好きだった。この作品ではアニャ・テイラー=ジョイですけど、旬の若手俳優を起用するサーチライトの特徴も出ていて最高ですね。 LiLiCo そうだ、これもサーチライトでしたっけ、忘れていました。その年のナンバーワンかナンバーツーだと紹介してました。 ――確かにLiLiCoさんが紹介されていました。 LiLiCo あれは傑作ですよ。まさに人生はあれだよと。あれを観てから、私はちゃんとシェフに何が美味しかったのか言うようになりました。 よしひろ サーチライト作品は総じて優劣がつけられない、つけたくないですね。自分のタイプじゃなかったとしても良作揃いだし、誰かに刺さる作品ばかりだから。 ――今回の30周年の特別企画では、劇場で6本の作品を上映しています。『リトル・ミス・サンシャイン』、『(500)日のサマー』、『グランド・ブタペスト・ホテル』(2014)、『シェイプ・オブ・ウォーター』、『犬ヶ島』(2018)、『ジョジョ・ラビット』(2019)です。 LiLiCo 実際『シェイプ・オブ・ウォーター』って日本で興行的にどうだったんですか。あまり話題にはなっていなかったんじゃないかと思ったんですが。 よしひろ 私は大好物ですが、いわゆる超大作のような話題の盛り上がり感はなかったですよね。 ――ところがこの作品はサーチライトの歴代でいくと、日本で2番目の興行成績なんです。 よしひろ え? すごい。オスカー効果ですかね。 ――あの年は『スリー・ビルボード』とオスカーを競っていたんですが、『シェイプ・オブ・ウォーター』の方が作品賞まで取りましたね。 よしひろ いろいろいいタイミングで出たんですね。 ――もちろん『スリー・ビルボード』もいい映画ですが、どちらが一般的かというと『シェイプ・オブ・ウォーター』の方がまだ一般的じゃなかったですか?監督も来日されていましたし。 LiLiCo あのビジュアルだから、これは日本では受けないんじゃないのと思いましたけど。 よしひろ 何が当たるかわからないですよね。『シェイプ~』はオスカーを獲得する前に監督の来日があったおかげで話題作りのタイミングとか、上映規模の調整がうまく行ったんでしょうね。 LiLiCo でもこの6本のラインアップの中では異色というか哲学的な方向のサーチライト作品だよね。 よしひろ パッと見はキャッチーだと思うんですよ。半魚人と人間の恋物語ですからね。でも描かれている内容としてはあの中では一番深いし、今観てもテーマ性がぴったり来る。
取材 / otocoto編集部 文・構成 / 佐々木尚絵
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