「私を止めてほしい」―ストーカーからのSOSメールが届いた 専門家は治療が必要と指摘
被害者が警察に告訴しない大きな理由として、報復を恐れる心理があります。被害者の多くは相手が処罰されることを求めていないし、逮捕されてもすぐに戻ってくるという無力感を持っています。 それでも被害届がカウンセラーの指示によるものなら、ある程度報復は防ぐことができます。ただし、気を付けなくてはいけないのは、一度、警告や被害届など刑事問題に対応のステージを上げた場合、可逆的対応をしてはならない、ということです。警告・逮捕・釈放後は当事者同士はもちろん、関係者が同席しても直に会ってはなりません。加害者は、あたかも自分が許されたかのような勘違いをする可能性があります。たとえ謝罪を申し入れてきても、決して面と向かっては対応しないのが鉄則です。 私の場合は最初から加害者に関わっているので、私だけが加害者と会うぶんには、可逆的でもマイナスにはなりませんが、当事者間で話し合うなら、必ず弁護士を間に挟むことです。 釈放後については法制度上いかんともしがたく、ストーカーとの闘いは一生続くという覚悟を持ってもらうしかない。 最近は、保護観察中の加害者や服役中の性犯罪者を対象に、認知行動療法が取り入れられていますが、その後のケアまでは定められていません。加害者の更生について知りたいと思う被害者の多くが、恐怖心を抱えたまま逃げ続けることになっています。
加害者からのSOS
ストーカーにも、ふと冷静になる瞬間があります。自ら制御しないとヤバイ、そう思うのです。私のところには、「止めてほしい」「つかまりたい」「入院したい」「死にたい」などと言って駆け込んでくる加害者が増えています。 最近は月に3~5人は加害者からの相談で、新規受付の4分の1を占めます。以下は、そんな加害者からのSOSメールです(一部略)。 「私はいわゆるストーカーでした。再発しそうで苦しんでいます。 元の彼女とは1年で別れたのですが、どうしても気持ちが残り、一昨年彼女の父親が死んだと聞き、彼女の実家に行きました。喪服を着た彼女が玄関に立ち、そばに旦那さんと子供がいて話しかけられなかった。 彼女たちが帰るのを張り込み、尾行して自宅を特定しました。それから時折張り込みましたが、こんなことをしてはいけないと、半年くらいはやめていた。でもやめているとイライラして、代わりに興信所を使って見張ってもらったりもしました。 新しい恋人ができれば苦しみが取れるかと思いましたが、逆に彼女への思いが強くなってきた。この1年は一人でずっと苦しみと戦い、やがて自分は幸せにはなれない、死ぬ前に彼女に会いたいと思うようになりました。 一日中、彼女と会うことばかり考えていて、無理やり会いに行ってしまいそうです。しかし、行けば最悪の結果になると思う。それが自分でも怖いのです。テレビでストーカー殺人の事件を見ると、自分の姿に重なります。友達に相談してもため息をつかれるだけです。とにかく誰かに気持ちを打ち明けたい。カウンセリングをお願いします」 駆け込んでくるのは、(3)の手前でためらっている人です。 尾行する相手を線路に突き落とそうとした人とは一緒に精神科に行き、そのまま3カ月入院となりました、もう一歩で殺傷事件を起こしたことでしょう。他にも包丁を持って歩いていて怖くなって電話をかけてきた人もいた。彼らは、「ストーキング依存症」から「ストーキング病」の境界線上にいるのです。相手の性格をよく把握し、一段上の段階に入らせない、薄氷を踏むような対応が求められます。 元交際相手を10カ所以上も刺したという人から事件に至る経過を聞いていると、ふと「このままではいけない、誰かに止めてもらわないと」と思うことがあったそうです。事件の前、相手と友人たちが集まっている場所に乗り込んで、全員に暴力をふるった時です。 「誰でもいいから、俺を殴って警察に突き出してほしかった。でも、みんな俺を怖がって、通報しなかった。俺は絶望した。彼女を殺さない自由はもう俺にはない、自分を止められないと分かったんだ……」 二人は数年間不倫関係にあり、女性には夫と子供がいました。女性は彼に多くのお金を貢がせておきながら、彼が借金で首が回らなくなると「お金の切れ目が縁の切れ目」と言ったという。「彼女に尊崇の念を抱いていた」男性は、その一言で「だまされた、悪魔だったと結論し、復讐しようと考えた」のです。 女性は一命をとりとめ、彼は服役しましたが、出所した時も「殺したい気持ちは変わらない」と言って反省はみられなかった。私は、ひどい頭痛と怒りからくる発作を繰り返す男性を医師のもとに連れて行きました。 神経科の治療を続けてからは頭痛や突発的な怒りの発作は減り、徐々に会話も冷静にできるようになりました。私は男性に、女性から謝罪を受けるイメージ療法を施しました。1年ぐらいのうちに男性の顔はおだやかになり、今は自分の心の中に復讐心は見あたらないと言っています。