図々しく人に頼ることで世の中は循環する。50代独身女性が考える、地域とつながり孤立しない暮らし方
ライターの和田靜香さんが上梓した『50代で一足遅れてフェミニズムを知った私がひとりで安心して暮らしていくために考えた身近な政治のこと』(左右社)では、老後の不安から女性議員が増えることの必要性を感じ、パリテ(男女同数)議会に注目。約20年前にパリテを達成している、神奈川県中郡大磯町の取材を行っています。インタビュー後編では、地方議会の傍聴のポイントや、一人でいることが好きでありつつも、地域で人とつながっていくコツや「人の頼り方」について伺いました。 <写真>図々しく人に頼ることで世の中は循環する。50代独身女性が考える、地域とつながり孤立しない暮らし方 ■まずは関心のある話し合いの日程を調べよう ――地方議会の傍聴に行ったことがない人に、おすすめの見方はありますか? 個人的には、本会議より委員会の方がおすすめです。本会議の方が全体像は見られますが、委員会の方が話が具体的。たとえば子どもがいるのでしたら、文教委員会に行くと、学校や子育てに関する話し合いをしているので、身近に感じられるかもしれません。どの委員会で、自分が関心のある分野を話し合っているかを調べることが、第一歩だと思います。委員会の名前だけではわからなければ、ホームページを見たり、議会のあれこれを取り仕切る「議会事務局」に問い合わせをしたりするといいです。 一回の定例会につき、1か月くらいの開催期間があって、とてもじゃないけれども全部は見られない。なので、まずは興味のある話し合いをしている1日、1~2時間だけ傍聴してみるといいんじゃないでしょうか。 ――大磯町を始め、地方議会を傍聴する中で、どんなところが傍聴のおもしろさだと感じますか? 大磯町は議論が活発なのでおもしろいのですが、地元の中野区議会は、時には白熱する議論もあるものの、正直、飽きちゃうことも少なくないですね。事前に議員から行政側に質問を通告するので行政側は用意した答弁を読み上げていることが多くて。議論として盛り上がっている感は少ないですが、それでも「そりゃ問題だわ」と思うことは多々あります。 なので、楽しくなくても、どんな話をしているか、チェックをしに行くことは大事だと思います。だって私たちの毎日の暮らしの話だもん。それに、見られていると議員さんも意識するので、「市民がそこにいる」というだけで、すごく価値がある。応援したい議員さんがいるときは、事前に傍聴に行くことを伝えてからいくといいですね。 ■一人で住んでいるけれども、孤立せずに生きていく ――正直、「地域でつながりを作っていくことは面倒だな」と思うことがあります。地域のつながりの大切さをどのように考えていますか? 私は一人で住んでいるものの、一人で生きているわけではないので、自分が楽しく暮らすためには、自分の住んでいる周囲が快適でないといけない。だから地域を良くしていく必要があるし、地域のつながりが大切になってくると考えています。 地域とつながっていけば、何かあったときに助けてもらえたり、ちょっとおしゃべりをしたりできる。それに一人で住んでいるけれど、孤立してはいけないとは思うんです。近所を歩いていても、おばあさんたちがおしゃべりしている光景をよく見ます。高齢になって、一人で住んでいたとしても、そういうつながりは必要ですよね。 かといって、一人で暮らしたいタイプの人間にとっては、ベタっとしたつながりは苦手。一人で住んでいると、お正月やお盆のときに孤独になりがちですが、わざわざ遠方の友達と会うわけにもいきません。地域にちょっとした友人・知人がいれば、公園で少しおしゃべりするとか、おしゃべりしながらスーパーに行って、買い物を終えたら解散、くらいのゆるい付き合いもできる。接点を持ちつつも、一人の時間は大切にして、孤立もしない距離感。それくらいの関係性の人が中野区に何人もいたら、それで結構楽しいじゃん!って思うんですよね。 私は「つくろい東京ファンド」(生活困窮者支援を行う団体)に週に1回くらい、おしゃべりしたり、お手伝いに行ったりしています。そこで出会う当事者やボランティアさんたちは、親しい友達というわけではないものの、仲良く過ごしていて。こうやって、一人で暮らしても、孤立しないで生きていく方法を自分で作っていくことを大事にしています。 ――和田さんご自身は、地元でつながりの場をつくっているのでしょうか? 「中野健康おしゃべり会」という名前で、近所の人に声をかけて、公民館で集まって、政治やジェンダーについて、おしゃべりをしています。参加者全員が私とは知り合いですが、参加者同士では初対面の人もいる関係です。それでも盛り上がって、今後も定期的に続けていこうと思っています。 こういう集まりって、公民館を借りて、地域の知り合い何人かに声をかければ、誰でもできると思うんです。知り合いからどんどん広げていくと、意外と地域の人と関係をつくっていけますよ。ちなみに公民館の部屋は広くて、「旅館に来たみたいだ」と、みなさん興奮します。 ――地域で活動をしていて、面倒だと感じることはありますか? 人が集まれば、意見の食い違いは必ずあるので、そういうときは一歩引いて、様子を見ています。 若い頃は「めんどうだな」と思うと、その人との関係をすぐに切り捨ててしまっていたのですが、今はどんなに意見や考え方が違っても、絶対に人間関係を切らないようにしています。 ある政治家の人と、ある事柄の賛否について話し合ったことがあるのですが、意見が真逆だったんです。そのときに言い合いながらも「意見が全く違うことがよくわかったね」と言われて、そうやって「違うことを理解し合う」ことは、大切だと思ったのを覚えています。 ――意見が合わない人と議論をすると、ピリピリした空気になることはありませんか?それが苦手な人も少なくないと思います。 ピリピリすることもありますし、怒鳴り合うこともあります(笑)。でも、政治的な意見が違うからといって、相手の人間性を否定しているわけではないですよね。 その場では徹底的に意見を言い合いますし、意見が全然合わなくてイライラしても、私はすぐに忘れちゃうんです。相手の人は気にしているかもしれないですが、次に会ったときに私がヘラヘラしながら話しかけると、相手も怒れなくなっちゃうのではないかなと。 そうしていくと、相手も議論をして意見が対立したとしても、関係が壊れるわけじゃないとわかって、だんだんと本音を言ってくれるようになるんじゃないかなって思います。 ■世の中を循環させるために“図々しく”人に頼る ――本書を読んでいると、和田さんは人を頼るのが上手だと感じました。今の社会では「自己責任論」が強くて、うまく人に頼れないという悩みを持っている人もいると思うのですが、和田さんは、どんなことを意識していますか? 言いたいことを隠さずに100%言うようにしています。少し前にコロナにかかったとき、「大丈夫ですか?何か欲しいものがあったら連絡ください」と心配して連絡をくれた人には、「電子レンジでチンできるご飯がほしいです」とか具体的に答えるようにしていました。そうすると、送ってくれるので(笑)。そうやってコロナの療養期を乗り越えました。 その後、送ってくれた人に直接お返しをするかというと、実はしていないことも多くて。別の場で、別の人に返せばいいと思っています。 「つくろい東京ファンド」には「お福わけ券」という取り組みがあります。券を必要とする誰かのために、事前に券を買った人がいて、必要な人はその券でお弁当をもらう。それと同じで、みんながお福を分け合えばいいのではと思っています。 私はお金がないからいつも労働(ボランティアやお手伝い)で返しています。たとえば、道にお年寄りが座り込んでいたら、必ず声をかけるようにしています。お金のある人だったら、金銭的にサポートすればいいし、お金がない人だったら、別の形で自分ができることをする。そうやって自分ができることで社会に返していけば、世の中は循環していきます。 図々しいと思う人もいるかもしれません。でも私が誰にも甘えずに「自己責任で頑張ります」と言ったら、循環は止まってしまう。実は甘えることって、世の中を回しているので大事なこと。これからもこの“図々しさ”を貫いていきたいですね(笑)。 【プロフィール】 和田靜香(わだ・しずか) 1965年生まれ。相撲・音楽ライターにして、政治ジャンルで『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』『選挙活動、ビラ配りからやってみた。「香川1区」密着日記』(左右社)の2冊を上梓。累計3.6万部を突破。 インタビュー・文/雪代すみれ
雪代すみれ