「自己肯定感を高めるほどメンタルが強くなる」は大間違い…"ナルシスト化"という副作用で周囲は大迷惑
仕事のプレッシャーに打ち勝つために、自己肯定感を高めることが有効だと思われている。だが、グロービス経営大学院教授の若杉忠弘氏は「自己肯定感を重視しすぎると周囲に悪影響を及ぼすことがある。自己肯定感に代わるものとして今世界で注目されているのが、“セルフ・コンパッション”の手法だ」という――。 【この記事の画像を見る】 ※本稿は、若杉忠弘著『すぐれたリーダーほど自分にやさしい』(かんき出版)の一部を再編集したものです。 ■自分に鞭打って駆り立てた結果はどうなるか? チームメンバーを引っ張りつつ、自らも頑張らなければいけないリーダーという立場は、心身ともに疲れ切ってしまうことも。そんな疲れ切っている心身をより悪化させてしまうのが、自分自身への厳しさです。 つらいときに「もっと頑張らなければいけない」と厳しく鞭を打ったり、うまくいかないときに「自分はダメだ」「なんでできないんだ」と自己批判をしてしまうことで、追い打ちをかけてしまうのです。 私自身、新卒で戦略コンサルティングファームに入社したころは、自分に厳しくあたっていたことを思い出します。「もっと価値を出せねば」と自分への厳しさを原動力に、仕事へと駆り立てていました。 今では、コンサルタントの働き方もずいぶん変わったと思いますが、当時、同じ業界のコンサルタントが心身の健康を崩したという話を聞くたびに、「こんなやり方でいいのだろうか」と、心のどこかに違和感をもっていました。
■燃え尽きそうになっていた自分が回復し、救われた体験 そのような経験から、リーダーは自己批判ではなく、自己肯定を大切にしなければいけないと考えるようになったのです。その後、自己肯定感とリーダーシップの関係について、博士課程で研究しました。 しかし、そこで驚くべき事実に出会います。それは、自己肯定感を重視しすぎると自己中心的になり周囲に悪影響を及ぼす、といった副作用やリスクがあるということです。その副作用ゆえに、この分野で先行する欧米では、すでに自己肯定感を高めるアプローチは下火になっていたのです。 こうした中、自己肯定感に代わるものとしてセルフ・コンパッションを知ったとき、「これだ!」と直観しました。それと同時に、「これは、私自身が必要としていることだ」と感じました。 当時、働きながら大学院で経営学を学んでいた私は、仕事と研究が忙しく、燃え尽きそうになっていた自分にセルフ・コンパッションのアプローチを取り入れました。そして自分が回復し、救われていく体験をしたのです。 自分へのやさしさが強さを育むのだと身をもって実感しました。「自分に何をさせることが、自分へのやさしさなのか」と自問する余裕も出てきました。 ■自己肯定感とセルフ・コンパッションの違いとは セミナーや講演などでセルフ・コンパッションを紹介すると、やはり「セルフ・コンパッションと自己肯定感はどう違うのですか?」と聞かれることがよくあります。セルフ・コンパッションと自己肯定感との違いはどこにあるのでしょうか。 自己肯定感とは、「自分自身をどれくらいポジティブに評価しているか」という度合いです。たとえば、世界でもっとも使われている自己肯定感(英語ではセルフ・エスティームといいます)をはかるアンケートには、次のような項目が並びます。みなさんは、これらの項目にどれくらい同意できるでしょうか。 ---------- ・私は、自分自身にだいたい満足している ・私には、けっこう長所があると感じている ・私は、他の大半の人と同じくらいに物事がこなせる ・私は、自分のことを前向きに考えている ・私は、少なくとも他の人と同じくらい価値のある人間だと感じる ---------- これらにおおよそ同意できた方は、自己肯定感が高いといえます。同意できなかった方は、自己肯定感が低いと言えます。一般的に、自己肯定感が高い人はメンタルが強く、幸せであり、健康であると言われています。 逆に、自己肯定感が低いままでは、不安を感じやすく、落ち込みがちです。リーダーも自己肯定感が高いほうが、成果を出します。とくに、組織やチームを大きく変えなければいけないような局面では、自己肯定感の高いリーダーが成果を出します。