第96回アカデミー賞は授賞式として“格段に”良くなった? 6つのハイライトを解説
巨匠から巨匠へのバトンパス儀式
受賞の瞬間で特に印象的だったのは、監督賞。『シンドラーのリスト』でアカデミー賞監督賞を受賞して30年が経ったスティーヴン・スピルバーグがプレゼンターとして登壇し、『オッペンハイマー』のクリストファー・ノーランの名を呼んだ。その溜めも迷いもないスピード感から、もはやスピルバーグは3度目のノミネートで遂に受賞できたノーランに初めてのオスカー像を手渡すためだけに式に参加したかのように思えるし、“彼から”受け取ることに意味があった。8ミリカメラや16ミリカメラなどでキャリアを始め、フィルムで映画を撮ってきた“巨匠”から、IMAXカメラを担いで撮影する次世代の“巨匠”へ。渡されたものは、オスカー像の形をしたバトンであり、映画史に残る受賞の瞬間だった。
リリー・グラッドストーンが初受賞逃す
最後に、本授賞式の最大のサプライズが主演女優賞の結果だったことに触れておかなければならない。本賞の最有力候補は何と言っても『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のリリー・グラッドストーンだった。彼女のノミネーションは先住民女性として初めてのことであり、アカデミー賞の前哨戦とも言えるゴールデングローブ賞やSAG賞でも受賞するなど歴史的快挙を成し遂げてきた。特にSAG賞では最大のライバルとして謳われた『哀れなるものたち』のエマ・ストーンが、グラッドストーンの名前が呼ばれた際にすごく喜んでいた様子から、全体的にオスカー像もグラッドストーンが手にするものだろうという空気感だったのだ。 しかし、名前を呼ばれたのはまさかのエマ・ストーン! 彼女の演技も素晴らしく、受賞に値するものだったが故にフェアではあるが、受賞歴のあるエマ・ストーンに対して“先住民女性役”を演じた“先住民女性”として、“オセージ族を巡った許されない犯罪を描いた作品”でリリー・グラッドストーンが受賞する機会はもうないかもしれない。やはり、本作で獲ってほしかった気持ちがある。しかし、殻を破ってあそこまで女優としての進化を見せたエマ・ストーンの演技も称賛されるべきなので、何とも言い難い。むしろ、必ず「robbed(奪われた)」という批判的な視聴者の意見がネットに溢れることがわかっているからこそ、エマ・ストーンもこのタイミングで受賞してしまったことが不憫にさえ思える。歴史的瞬間として期待されていたリリー・グラッドストーンの素晴らしい受賞スピーチは、ゴールデングローブ賞、SAG賞で聞けるので動画などで振り返るとしよう。 第96回アカデミー賞は『オッペンハイマー』が最多7部門受賞、次いで『哀れなるものたち』が4部門、『関心領域』が2部門受賞という結果となった。ぜひ、受賞作品を映画館まで足を運んでご覧いただきたい。
アナイス(ANAIS)