第96回アカデミー賞は授賞式として“格段に”良くなった? 6つのハイライトを解説
ジョン・シナが会場の笑いを誘い、アル・パチーノが困惑をもたらす
今年の授賞式が全体的に良い感じだったのは、面白くも何ともないのに面白いことを言っているふうに長々と時間を使って話すプレゼンターがいなかったからかもしれない。時にシンプルであればあるほうが面白い、ということを今回ジョン・シナが“体を張って”私たちに教えてくれた。司会のキンメルが50年前の授賞式で全裸男がピースをしながら画面を横切った事件を振り返っていると、登場したのが全裸のジョン・シナ。封筒で股間を隠しながらステージ中央まで辿り着くと「……衣装……それは何よりも大切なものです」と言って、会場は爆笑。全裸芸でコスチューム・デザイン賞の大切さを説くのも面白いが、何よりそれをやっているのがいつも観客を楽しませることを第一に考えているお茶目なシナの人間性あってこそ成立したギャグとも言えるだろう。 一方、ほぼ唯一と言っていいほど会場が明らかに困惑した瞬間は、アル・パチーノが作品賞を発表した時のこと。登壇すると、本来やるべき全ノミネーション作品のタイトル紹介をすっ飛ばし、いきなり封筒を開けて「『オッペンハイマー』って書いている」と気軽に言うので、誰もが「『オッペンハイマー』が受賞したってことでいいの?」と戸惑っていた。
問題に意識的なスピーチとオーディエンス
楽しいことばかりではなく、問題にも意識的でいる必要があることを強調した第96回アカデミー賞。オープニングモノローグでは2023年の映画界最大の話題となったストライキについて言及し、改めてストに参加した俳優陣やライター陣へ司会のキンメルが感謝を述べた。そして長編ドキュメンタリー賞を、ロシアによるウクライナ侵攻によって包囲されたマリウポリ市内の惨状を記録した『実録 マリウポリの20日間』が受賞。スピーチでウクライナ人ビデオジャーナリストであるムスティスラフ・チェルノフは「(受賞者として)この映画を作らなければよかった、と話す最初の監督になるだろう」と語った。 また、授賞式には胸元に“赤いピンバッジ”をつけている参加者も。このバッジはパレスチナ自治区ガザ地区での即時停戦を呼びかける意味があり、即時停戦と緊急の人道支援、すべての人質の解放を呼びかけるキャンペーン「Artists4Ceasefire(停戦のためのアーティストたち)」への連帯でもあるのだ。歌曲賞を受賞したビリー・アイリッシュとフィニアス・オコネルをはじめ、マーク・ラファロ、ラミー・ユセフ、マハーシャラ・アリ、リズ・アーメッド、エイヴァ・デュヴァーネイ、スワン・アローらが着用していた。 加えてホロコーストを新しい観点で捉えた『関心領域』のジョナサン・グレイザー監督は、国際長編映画賞受賞のスピーチで「過去に彼らが何をしたか以上に、今私たちが何をすべきかを大切にした」と語り、ガザでの虐殺について触れたが、拍手をする者としない者で会場内の反応は分かれていた。