第96回アカデミー賞は授賞式として“格段に”良くなった? 6つのハイライトを解説
「称賛」に重きを置いた発表、リスペクト溢れるプレゼンテーターたち
さて、今年のアカデミー賞で印象的だったのは時間の使い方と丁寧さだ。例年に比べて開始時間が1時間早まった授賞式は司会のジミーがオープニングモノローグで「開始を早めたけど長いから覚悟して」と言っていたもののトータルでは3時間23分、第95回が3時間37分、第94回が3時間40分だったのに対してむしろ時間が短縮されている。今年はノミニーの紹介を丁寧に、時間をかけてやっていたにもかかわらず驚きの結果だ。 このノミニー紹介の丁寧さが本当に素晴らしかった。助演男優、助演女優、主演俳優、主演女優の部門を過去に受賞した俳優陣が5名ずつ登壇し、それぞれがノミネートされた俳優に称賛の言葉を送るのである。その言葉が受賞スピーチ並みに真摯なメッセージだからこそ、受け取ったノミニー側にも響いていて、涙を流しそうになる者も続出。従来のアカデミー賞の大概は受賞有力候補がすでに決まっていて、そうでないノミニーは名前だけ紹介されると、後は賞を獲った/獲らないで話が終わってしまう。なので受賞を逃した者たちにとっては、負け試合に出席しにいくような苦さもあるのだ。 しかし、今年は受賞者を発表する前に一人一人の作品内での演技やこれまでの功労を讃えることで、彼らも報われた気持ちになれた。特にキリアン・マーフィーの受賞が確実視されていた主演男優賞の発表ステージでは、ニコラス・ケイジやマシュー・マコノヒー、ブレンダン・フレイザー、フォレスト・ウィテカーによって讃えられたポール・ジアマッティ、ブラッドリー・クーパー、ジェフリー・ライト、コールマン・ドミンゴの表情から純粋な喜びと感謝が伝わってくる。加えて、助演女優賞の部門では『ウエスト・サイド物語』で「アメリカ」を歌ったプエルトリコ出身のリタ・モレノが、両親がホンジュラスからの移民であるアメリカ・フェレーラの名を力強く「アメリカ!」と呼ぶ瞬間にはさまざまな意味合いが込められていて美しかった。 俳優陣が俳優陣をサポートするだけに留まらず、オープニングモノローグでは映画のいわゆる“裏方”の人にステージに登壇してもらってみんなで称賛したり、スタントマンやスタント撮影を讃えるスペシャルコーナーが設けられていたりと、とにかく今年のアカデミー賞はお互いに「ありがとう」と「素晴らしかったよ」を伝え合う良いバイブスに溢れていた。スタンディングオベーションの数も、歴代で1番多かったかもしれない。それくらい、出席者たちの優しさが見ていて心地の良い回だった。放送時間の短縮ばかりを考えて、受賞結果以外さほど中身のない授賞式を行ってきたが故に批判ばかり受けてきたオスカーだが、今回の成功を活かしてぜひ来年以降も同じ形でやってほしい。