「栞とは離れない」。“薄汚い不倫”から美羽(松本若菜)が選び取ったのは…… 『わたしの宝物』9話
揺れることのない美羽の心
莉紗から「薄汚いただの不倫でしょ?」「みっともない、お子さんがかわいそう」と罵倒された美羽だが、これまでとは一転、人が変わったように強い言葉で言い返した。「よっぽど好きなんですね、冬月さんのこと。嫉妬ですか?」「つまらない嫉妬に私を巻き込まないで!」という語気の強さは、そのまま「冬月さんと、どうかお幸せに」と願う、彼女の思いの強固さに結実していく。 宏樹とともに生きていくことも、冬月と出会い直すこともしない。きっと早い段階から、美羽の心は決まっていたのだ。宏樹とは離れなきゃいけない。しかし、冬月と一緒になることもしない。 美羽にとっての、たった一つの大切な宝物は、栞である。「私は栞とは離れない」「栞が私に力をくれる」と確かめるように言葉にする美羽は、あれもこれも、と欲張りになりすぎていた自分を省みながら、ようやく宝物を選び取ったのだ。 美羽は多くの人を傷つけた。間違ったことをして、過ちと向き合い続けた。そのうえで「だけど後悔はしない。このことがなかったら、栞に会えなかったから」と言っている。宏樹のことも冬月のことも、彼女は切り捨てたわけではない。自分がしたことの罪悪感から目を背け、彼らの存在ごと遠ざけたわけでもない。 彼女の本音と願いは、たった一つの宝物である栞とともに、二人で生きていくことなのではないか。物語の終盤、宏樹は美羽と冬月があらためて、二人で会って話ができるように場を設けた。二人はお互いの胸中を、本音を言葉にし合うことになるだろう。しかし、おそらく、美羽の心が揺れることはない。
『わたしの宝物』 フジ系木曜22時~ 出演:松本若菜、田中圭、深澤辰哉、さとうほなみ、恒松祐里、多岐川裕美、北村一輝ほか 脚本:市川貴幸 主題歌:野田愛実『明日』 プロデュース:三竿玲子 演出:三橋利行(FILM)、楢木野礼、林徹
文:北村 有