「子どもと暮らしたいのは、エゴでしょうか」障害のある母親へ乏しい支援 乳児院に預けざるを得ない女性たち、グループホームは同居想定せず
▽わが子と一緒に帰ることができない家 軽度の知的障害があり、神奈川県藤沢市のグループホームで暮らす和田和美さん(31)=仮名=は、今年4月に男児を出産した。生理不順もあって妊娠に気付いたときには22週を越えており、中絶の選択肢はなかった。長年担当している相談支援専門員を始め、行政などが支援して、県内の病院で入院して産んだ。 交際相手とは別れ、シングルマザーとして子育てを希望したが、出産後に退院しても、子どもと一緒に住まいであるグループホームに帰ることができなかった。和田さんが暮らすグループホームが、同居を断った。 グループホームは制度上、原則18歳以上の障害者を対象にしており、子どもとの同居は想定していない。育児を支援した場合の行政からの財政的な手当てもない。グループホームの管理者は「居室はワンルームで、支援できる職員もおらず、子どもとの同居は困難だ」と説明している。 和田さんは県内の企業で働き、子どもと2人で暮らせる収入がある。金銭管理など苦手なことはあるが、障害の程度は軽く、和田さんが暮らすグループホームの管理者も「彼女はサポートがあれば育児ができると思う」と話す。
和田さんは子どもを乳児院に預け、週末に面会に行く日々を送る。「やむを得ず乳児院に預けたが、早く一緒に暮らしたい」。そう願い、どうすれば同居できるか周囲と相談を重ねている。 ▽宙に浮く希望「スタートラインに立つことさえ許されない」 和田さんを担当する相談支援専門員の女性は、「彼女は育児のスタートラインに立つことさえ許されない」と、現状に疑問を呈する。 北海道のグループホームで起きた問題を受け、厚生労働省は今年1月、障害福祉や子育て関連施策を最大限活用して障害者の育児を支援するよう自治体に通知した。だが、実際には希望が宙に浮いてしまう現実がある。 相談支援専門員の女性は、出産後の和田さんの変化を感じているという。仕事により励むようになり、貯金にも取り組む。「実家での子育ては親の都合でできず、アパートなどで1人で育児をするのに必要な支援を用意するのは現実的に難しい。本人の希望に沿ってグループホームで子育てできるのが望ましいと思うが、そうしたグループホームは乏しい」と嘆く。