「子どもと暮らしたいのは、エゴでしょうか」障害のある母親へ乏しい支援 乳児院に預けざるを得ない女性たち、グループホームは同居想定せず
知的障害や発達障害がある女性たちが子どもを産んだ場合、子育てでは厳しい現実が待っている。支援制度が整っていない上、周囲からも理解されず、サポートを十分受けられないケースがある。昨年、北海道のグループホームでは、結婚を希望する知的障害者が不妊処置を受けていた問題も明らかになった。「子どもと暮らしたいのは、私のエゴでしょうか」。やむなく子どもを乳児院に預けた2人の女性に思いを聞いた。(共同通信=船木敬太) 「2人きりで会ってはいけない」、知的障害を理由に強いられた〝約束〟 なぜ私たちだけ?特別支援学校高等部の7割が交際を禁止や制限
▽アパートでの〝孤育て〟行き詰まる さいたま市在住の山川美玖さん(24)=仮名=は、日常会話からは障害に気付かれないことも多いが、自閉症で物覚えにむらがある。特別支援学校高等部時代の同級生で、知的障害がある男性と交際し、自身が21歳だった2020年に男児を出産した。 出産後、家族の事情で実家では子育てできず、民間アパートの1室を借りて交際相手と一緒に暮らした。ミルクのあげ方やお風呂の入れ方などは出産した病院や、2週間に1回訪問してくる保健師から教わった。ほかに週1回ほど、ヘルパーによる育児支援も受けたが、相談相手は乏しかった。親からの支援も多くは望めず「特に夜は保健師さんに電話もできず『孤育て』でした」と振り返る。 アパートは単身者が多く、乳児の泣き声への苦情が相次いだこともあって、子育ては行き詰まった。グループホームで子育てを支援している社会福祉法人「上州水土舎」(群馬県富岡市)の存在を知り、訪れて相談したこともあったが、結局は山川さんの周囲の理解を得られず、子どもは乳児院に預けることになった。 ▽子どもは「生きる理由」、養子に出す踏ん切りつかず
子どもを自分たちで育てるべきか否か。乳児院に預けた後も、パートナーの男性を含めて周囲からは養子に出すことを勧められた。子どもの幸せを考えると、手放した方がいいかもしれないことは理解できた。だが、山川さんにとって子どもは「生きる理由」で、踏ん切りが付かなかった。パートナーと意見が合わず、交際は解消。山川さんは精神的に不安定となり、今も心療内科に通う。 記者が「当時、もっと支援が必要だった?」と質問すると、山川さんは否定した上で振り返った。「育児は自分がしなければいけないこと。支援が足りなかったとかは言えない。でも、もう少し支えてもらったり、相談に乗ってもらったりすれば、今こうして苦しんでいないかもしれない」。 今は子どもと一緒に暮らす日を夢見て、パソコンなどの職業訓練に励んでいる。山川さんはいつか「生まれてくれてありがとう」「私のエゴで引き取りたいと言ってごめん」という二つの言葉を子どもに伝えたいと思っている。「将来一緒に暮らせるようになっても、もし子どもが私と離れることを選ぶなら、それは受け入れなければいけない」