ローカル線も路線バスも「赤字か否か」が注目されがちだが…欧州ではここを見る、公共交通の力を引き出す4つの側面
■ 第三の側面「自動車の諸問題の緩和機能」 さらに別の第三の側面が公共交通にはある。自動車という選択肢がある人が全員、常に自動車を使って移動すると、さまざまな問題が発生する。典型は渋滞であるが、ほかにも様々ある。 排ガスによる大気汚染は技術の向上でかなり改善したが、それでもゼロというわけではない。駐車場で舗装された市街地が増えれば、夏場は局所的に暑くなるし(ヒートアイランド)、町を歩く魅力も薄れる。 また人ひとりを1km運ぶのに必要なエネルギーは、自動車は公共交通の5~6倍である。それに応じて二酸化炭素など温室効果ガスの排出も大幅に多い。 さらに、自動車は自宅など出発地から目的地まで直行する性質の乗り物である。町から人がいなくなって、にぎわいも失われる。 さらに、昨今の国際情勢の影響で原油価格が高騰し、それに連動して世界中でガソリン代がずいぶん高くなった。日本では数兆円もの税金で補填して、消費者にとって見かけ上安くしているだけである。 車に頼る人の割合が増えれば増えるほど、日常の移動のコストが国際情勢に影響される人々が増える。人々の日常生活の脆弱性が高まる。 公共交通には、このような、多くの人が自動車に依存することによる負の側面、専門的には負の「外部性」を緩和したり、原油価格のような外的要因の影響を緩和したり、人々の生活の強靭性を高める役割がある。 自動車を全廃まですることは現実的ではないだろうが、一定程度の人に公共交通が現実的な選択肢としてあれば、上に書いたような自動車に依存するゆえの問題の緩和が期待できる。これが公共交通の第三の側面である。「自動車の諸問題の緩和機能」、と呼んでもよいだろう。
■ 「まあるい緑の山手線、まんなかとおるは中央線~♪」 さらに、これは主に鉄道・軌道に限った話だが、公共交通は都市や地域の骨格・構造を作り出す。 身近な例でいえば、不動産広告には「○○駅から徒歩□分」などと書かれることが多いが、都市部では家を借りたり買ったりするときなどに検討する重要項目である。線路は地図にも載るから、人々が町のつくりを認識する時の需要な補助線になる。 関東の人には「まあるい緑の山手線、まんなかとおるは中央線~♪」というカメラ屋のCMソングがおなじみだろうが、これも鉄道網が東京という都市の骨格の認識に使われていることをよく反映した例といってよい。 バスではこうはいかないが、鉄道・軌道は都市・地域構造の骨格を規定し、人々の認識や意思決定に資する。これが公共交通の第四の側面である。 >>この記事の続きは「公共交通「赤字か黒字か」の議論からどう脱却? 鉄道・バスのサービス水準を可視化するオーストリア「PTSQC」という指標」へ
柴山 多佳児