「飛び抜けた成果を出す人」と「まったく成果が出ない人」のたった1つの意外な共通点
世の中には「飛び抜けた成果を出す人」と「まったく成果が出ない人」がいる。この違いは何だろう? 本連載では、ビジネスパーソンから経営者まで数多くの相談を受けている“悩み「解消」のスペシャリスト”、北の達人コーポレーション社長・木下勝寿氏が、悩まない人になるコツを紹介する。 いま「現実のビジネス現場において“根拠なきポジティブ”はただの現実逃避、“鋼のメンタル”とはただの鈍感人間。ビジネス現場での悩み解消法は『思考アルゴリズム』だ」と言い切る木下氏の最新刊『「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』が話題となっている。本稿では、「出来事、仕事、他者の悩みの9割を消し去るスーパー思考フォーマット」という本書から一部を抜粋・編集してお届けする。 20歳前後の頃、私はつきあっていた彼女とうまくいかずに悩んでいた。 そのとき、相談したのが友人のTだった。 当時、恋人がいたTは、彼女ととても仲よくやっているように見えた。 「彼女に合わせてるだけだよ。全部合わせてる」 それが彼の返事だった。 答えに満足できなかった私は食らいついた。 「……でも、そんなことしてたら“自分のよさ”がなくならないの?」 そのとき彼から言われた言葉が衝撃だった。 「“自分のよさ”なんて信じてるのは自分だけ。 おれは『彼女と仲よくすごせる自分』になりたい。 そう思ってたら、いくらでも変われるよ」 ● 「らしさ」や「長所」は本当に強みなのか? 「他人の性格は変えられない」という話に共感する人は多いだろう。 では、「自分の性格は変えられない」についてはどうだろう? 人によって見方が分かれるところだと思う。 結論からいえば、「自分の性格は変えられない」という考え方をする人ほど、よく悩むことになる。 「性格」だけではない。才能、強み、長所、自分らしさなど、己のうちに「不変の性質」があると信じる人は少なくないはずだ。 こんなものは目で見て確かめようがない以上、これも世界を捉えるときのフレーム(思考アルゴリズム)にすぎない。 「変わらない自分」という思考アルゴリズムは、深い悩みを生む。 「自分なんていくらでも変えられる」と思っている人と「自分の中にどうしても変えられないものがある」と信じている人とを比べると、後者のほうが圧倒的に「悩むこと」に人生の時間を奪われやすくなる。 「“自分のよさ”なんて信じてるのは自分だけ」 とTに言われたとき、私の中で思考回路がカチッと切り替わった。 端的にいえば、自分の「強み」「長所」「(自分)らしさ」といったものをあまり重視しなくなったのだ。 自分が大切に守ろうとしている「らしさ」は、本当に「よいもの」なのか? だれかに指摘された「長所」は、本当に「強み」といえるのか? 結局、何の取り柄もない人が自信をでっち上げるために、取るに足らない特徴をそう呼んでいるだけでは? 以来、私は「自分らしさ」にすがるのをやめた。 「らしさ」に目を向けるのをやめた途端、驚くほどいろいろなことに悩まなくなったのである。 ● 「他人と同じではうまくいかない」という思い込み 「飛び抜けた成果を出す人」と「まったく成果が出ない人」という相反する人たちには、意外な共通点がある。 それは、どちらも「自分らしく仕事をしている」ということだ。 しかし、その自分らしさをどのタイミングで出しているかが違う。 特異なパフォーマンスを上げている人は、往々にして「勝ち方」も特異である。 だれもやっていない「その人ならではの方法」で結果を出しているように見える。 たとえば、一流アスリートが独特のフォームをしていたり、世界的アーティストが型破りな歌い方や演奏をしていたりするシーンを想像してみるといい。 オリジナリティやユニークさがあり、それによってほかの人には出せない成果を出している。 そのせいか、多くの人が「うまくいくには、ほかの人と同じやり方ではいけない。 自分らしいやり方を確立する必要がある」と思い込んでいるようだ。 ごくシンプルにいえば、「他人と同じ=うまくいかない」「自分らしい=うまくいく」というフレームにはまり込んでいる。 差別化を通じてほかの人との無用な衝突を避けるのは、ビジネスにおける基本的な戦略の一つ。だが、どんな物事にも基本の成功パターンがある。 それを押さえたうえで独自の道を歩むのと、何も知らずに自己流で突っ走るのとはわけが違う。 差別化戦略は「ほかと同じやり方をすること」まで否定しているわけではないのである。 やり方まで「自分らしさ」が必要と思い込んでいる人は、いくら「王道」を教えられても無視してしまう。 だからいつまで経っても結果につながらず、次第に悩みの沼に落ち込んでいく。 なかには「自分らしさを追求しているのに、一向にうまくいかない。自分はこの仕事に向いていないのだ……」と勝手に結論を出し、突然仕事を辞めてしまう人もいる。 こうした悩みは、「人と違うことをしないといけない」という思考グセを捨てれば、一瞬で解消できるものである。 一方、「悩まない人」は「自分らしさ」などどうでもいいと思っている。 最初から「自分らしさ」に固執すると、成長の余地が狭まることを知っているからだ。 彼らは、「うまくいっている人のやり方=王道」を謙虚に学び、それを模倣することに何の躊躇もない。 そこには「自分らしくあらねば……」という強迫観念がまったく見られないのだ。 こんな仕事の仕方をする人は、当然、すぐに一定の成果を出せるようになる。 この段階に至って初めて彼らは「らしさ」を追求する。 つまり、成果のレベルのランクを上げるために「ほかとの差別化」を模索し始めるのである。 ● アイドルが売れるための「鉄則」 これは芸術や武道の世界で語られてきた「守破離」と同じである。 先人のやり方を忠実に学ぶ「守」、それをベースに自分なりにやってみる「破」を経たうえで、自分なりの独自性を発揮する「離」がくる順序でなければならない。 私は大物司会者の浜村淳さん(1935年生)が好きで、50年続くMBSラジオの『ありがとう浜村淳です』を若い頃からずっと聴いていた。 もう何十年も前の話だが、浜村さんが「アイドルが売れるための鉄則」について語っていたのが非常に印象に残っている。 浜村さんは当時すでに芸能界の重鎮だったので、いったいどんな話が飛び出すのかと私は耳をそばだてていたが、その「鉄則」は拍子抜けするほどシンプルだった。 なんと「ミニスカートでフリフリの服を着て、聖子ちゃんカットでデビューすること」こそがアイドルが売れる条件と言ったのだ。 いまとなっては私もこの意見に全面的に賛成できる。 たくさんの競合商品があるマーケットに飛び込むとき、多くの人は「どうすればスキマを狙えるか」と差別化を考えてしまう。 だが、いきなり個性的な商品で勝負すると、たいていは玉砕する。 これは新人アイドルも同じだ。 浜村さんが言いたかったのは、まずはアイドル然とした格好をしないと、戦いの場に立つことすらできないということ。 個性をアピールする「離」の段階は、もっと後になってからでいい。 コンピュータゲームなどにおいて物語の最後に待ち受けているボスキャラのことを「ラストボス(通称:ラスボス)」という。 「自分らしさ」というのは、本来、あらゆるステージをクリアしたうえで向き合うべき「ラスボス」なのである。 いきなり「自分らしさ」を追求する人は、レベル1のままいきなりラスボス戦に臨んでいるようなものだ。 守破離という成功の鉄則を無視したまま、自己流を極めようとすれば、失敗することは目に見えている。 逆に「自分らしさ」を追求するのは最後でいいとわかっていれば、途中のプロセスでも悩むことがなくなるだろう。 ● 「自己流にこだわる人」はプライドが低すぎる理由 「自分らしさ」に固執する人は、プライドが高すぎるといわれる。 しかし、これは誤解を生むかもしれない。 私が言いたいのは、「プライドなんて捨ててしまえ」ということではないからである。 「自分らしさ」にとらわれて悩む人は、プライドの高さが問題なのではなく、「どこにプライドを抱くか」を誤っているにすぎない。 はじめから自分のやり方を貫き通そうとする人は、「いまの自分」にプライドを持っている。 これまでがんばってきた自分、その過程で培ってきた強み、もともと持っている素質──そういったものを大切に抱え込み、その延長線上で結果を出さねばならないと思い込んでいる。 「自分らしくないやり方をしてはいけない」「自分らしい勝ち方でないとカッコ悪い」というマインドが足かせになり、チャレンジの幅が広がらず成長できない。 結果、ますます自分の守備範囲が広がらなくなる負のスパイラルに陥っている。 一方、「自分らしさ」にこだわりがない人は、まったくプライドを持っていないかというと違う。 彼らは「いまの自分」ではなく「未来の自分」に対してプライドを持っているのである。 「『いまの自分』は『未来の自分』からすると大したことない」「未来の自分はこんなものでない」と思っているので、これまで積み上げてきた「強み」にそこまで興味がない。簡単に自己流のやり方を手放せるので、「自分らしさ」に悩むこともない。 「悩まない人」の世界観からすると、「自分らしさ」にとらわれている人のほうが、むしろ自分に対するプライドが“低すぎる”。 「未来の自分」にプライドを持てていないからこそ、過去や現在にしがみついているのだ。 ● 「理想からほど遠い自分」が見えている人ほど悩まない 「未来の自分にプライドを持てる人」と「そうでない人」の違いは、どこにあるのだろう? それは、心の中に「理想の姿」を持っているかどうかの差である。 「ああなりたい」と思える理想を失ったとき、人は「過去の自分」にすがりつき、「現在の自分」を大切にし始める。 逆に、目指すべきはるか彼方のゴールが見えている人は、「自分らしさ」など目に入らない。 本気で「大谷翔平のようになりたい」と思っている野球選手は、自己流の練習法にこだわらず、大谷選手がやっていることを真摯に学ぼうとするはずだ。 いまのあなたがレベル8として、「理想の姿」がレベル1000だとしよう。 レベル1000を目指している旅路においては、レベル8に至るまでに築いてきた「自分らしさ」は意味がない。ほとんど誤差のようなものだ。 そんなものは無視し、レベル1000の人のやり方を愚直にマネたほうが、圧倒的に大きく成長できる可能性が高い。ある程度の期間のうちに、ひょっとするとレベル100くらいには到達できるかもしれない。 一方、「理想の姿」がない、レベル8の人は、なんとなくレベル10を目指してしまう。この場合、レベル10の人のやり方に学ぶのは得策ではない。 むしろ、レベル8にたどり着く過程で培った「自分らしさ」を活かしたほうが、うまくいく可能性は高い。 ただし、このやり方だと成長スピードは遅くなる。 どうしても停滞感が生まれるので、どこかのタイミングで悩みモードに入ってしまう。 あなたは「自分らしく生きよう」「自分らしく働こう」という言説の呪縛にはまっていないだろうか? 最初から自分らしさを目指す必要などない。 「あの人のようになりたい」という憧れの気持ちにもっと素直になれば、「自分らしさ」で身動きが取れなくなることはなくなり、もっと軽やかに日々をすごせるようになる。 (本稿は『「悩まない人」の考え方──1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』の一部を抜粋・編集したものです)
木下勝寿