『わたしの宝物』松本若菜×田中圭×深澤辰哉の配役の妙 美羽、宏樹、冬月の幸せを願って
ドラマ『わたしの宝物』(フジテレビ系)を観ていると、一つ一つの選択や偶然が人生を形作っていることを実感する。そして、その結果に翻弄されながらも新たに選んだ道が、さらに未来へと繋がっていくのだ。 【写真】『わたしの宝物』最終話の場面写真(複数あり) 視聴者として最初は、美羽(松本若菜)に冷たく当たる夫の宏樹(田中圭)の態度に驚き、美羽と幼なじみの冬月(深澤辰哉)が再会したことに感謝し、美羽目線で彼女を応援していた。しかし亡くなった(と思っていた)冬月との間にできた子供・栞を宏樹に隠してでも守ろうとする美羽の気持ちと、子供ができたことをきっかけに美羽との関係性が戻って幸せをかみしめる宏樹の気持ち、そして実は生きていて再び会った美羽に突き放されてしまった冬月の気持ちが入り混じって、それぞれの行動に理由があるからこそ、誰目線で観たらいいのか悩み、俯瞰して3人の動向を見守ることが最善だと感じた。 栞を授かったことは誰にとっても幸せなことで、栞に罪はない。しかし美羽は、本当の父親を隠したところからすでに罪を背負っている。宏樹も仕事のストレスを美羽に当たることで解消させていた過去がある。そして冬月は、既婚者と関係を持ってしまった。それぞれが抱える罪の重さは、自身が一番よく分かっているだろう。 そこから幸せな最終回など迎えられるのだろうか、と考えてしまうが、どんな結果であろうと見届けたいという視聴者も多い。筆者もそのうちの一人だ。悪い人は誰もいない。誰もが自分なりの選択をした結果であり、それは人間らしいエゴでもあるし、相手への思いやりでもある。“選択”を避けられない人生において、彼らの話は他人事ではないからこそ、最後まで見守りたくなってしまうのだろう。
松本若菜×田中圭×深澤辰哉の“俳優としての強み”
また、松本若菜、田中圭、深澤辰哉の3人が本作に揃ったのも必然だと言える。松本は明るく元気なイメージがあるが、優しさ故の悩みを抱える大人な表情が印象的だ。田中は類まれなる演技力はもちろんのこと、夫/父親役を担った時こそ、優しさと説得力が共存する唯一無二の存在感を見せている。深澤は『春になったら』(カンテレ・フジテレビ系)で体現したような控えめな温かさを持っている。全員の根底には思いやりが感じられ、それが役そのものにもリンクしているからだ。 本作は情景やストーリーがコロコロと移り変わるのではなく、それぞれのキャラクターの内面がじっくりと描かれている。だからこそ、俳優たちの演技力が光る。本心を全て打ち明けることができないからこそ、頭の中で考えて、絞り出して言葉を発し、その気持ちが表情にも滲み出ているのだ。(もちろん状況の重大さは違うけれど)誰かに叱られている時や誰かとけんかした時に感じるような、「今すぐこの場から抜け出したい」という空気感が漂っていて、観ている自分まで苦しくなってくる。これは俳優全員の力で作られているものなのだろう。もうすでに演技の実力は知れ渡っている3人だが、本作での演技には、表情や言葉の一つ一つに耳を澄ませ、目をくぎ付けにするパワーがあり、俳優としてさらなる段階に上がったその瞬間を目の当たりにしているような感覚だった。 最終回を前に、宏樹には「なぜ美羽は栞の父親を頑なに言わなかったのか?」、そして冬月には「子供の父親は誰なのか?」という問いがそれぞれに明かされた。一方で、宏樹が最善として取った行動によって再会した美羽と冬月の行く末はどうなるのか、という重要な疑問が残された。 動物園という幸せ溢れる雰囲気の中で、栞を前に2人はどのような会話を交わすのか。全員が自分なりのやり方で、“完全なる幸せ”ではなくても、納得のいく豊かな人生を掴むことを願いたい。
伊藤万弥乃