東京の「富士寮」3月閉鎖 静岡県出身男子学生1400人支え 新寮は完全個室型に
公益財団法人静岡県学生会館は、首都圏の大学に通う本県出身者を受け入れてきた東京都文京区の男子学生寮「富士寮」を2025年3月で閉鎖し、豊島区の新築マンションに完全個室型の寮を設ける。共同生活から、プライベート重視へ-。開設から70年近くがたち、新たな寮運営へかじを切る。 富士寮は1956年に県出身者の寄付などを原資に建てられた。寮費は月額6万7千円で、風呂とトイレは共同、朝夕の食事付き。当初は1部屋を2人で使用し約100人が入寮していたが、20年ほど前からは個室とし、毎年46部屋が埋まった。県内の各種機関から広報誌や就職情報も届き、ふるさとを身近に感じながら約1400人が巣立った。 他方、長年老朽化が懸案だった。崖地に立つ環境から同規模での建て替えが難しく、移転新設を検討してきたものの都内の不動産価格の高騰により進展しなかった。その間にも施設の傷みは進行。居室は修繕を重ねたが、トイレは頻繁に故障し、真夏にブレーカーが落ちることもしばしば。同法人業務執行理事で寮長の庵原哲也さん(63)は「学生の健康管理が心配で、利用休止が先決だった」と決断の理由を語る。 今秋県内各地で保護者説明会を開いて施設閉鎖に理解を求めつつ、寮としての存続方法を模索した。学生も保護者もプライバシーを重視する傾向が強まっているとして、4階建て全14室のマンションを購入した。風呂やトイレ、キッチンなどを備えた1Kタイプ。完全個室になるものの、定期的に集会を開いて寮生の親睦を深めるほか、近くに住むスタッフが困りごとや緊急時に対応するなどサポート機能は維持する。現在入寮する一部学生に加え、2025年1月から若干名を募集する。 庵原さんは新形態の寮運営へ気持ちを新たにする一方、「同郷者が一つ屋根の下で暮らすことで一層絆が深まり、卒業後も良い関係が続く。将来的に都内に再び共同生活を基本とした寮を整備できたら」と展望した。 ■寮生「温かな雰囲気」 保護者からも信頼厚く 富士寮ではスタッフによるきめ細かなサポートや寮生同士の支え合いによって、学生が安心して勉強に集中できる環境が整っていた。 日本大2年の吉本欣之介さん(20)=静岡市出身=は安価で食事付きであることに引かれ入寮した。共同の風呂とトイレは「最初抵抗があったけれど、すぐに慣れた」。休日は食事の提供がないものの、食堂にいると先輩が飲み物をおごってくれたり、食堂のスタッフがおにぎりを用意してくれたりしたことがあった。中学の同級生との再会もあり「温かな雰囲気の中で過ごせた」と振り返る。新寮に転居する予定で「食事作りが心配」と苦笑した。 新型コロナウイルス禍にはスタッフが感染対策や療養する学生の体調管理を行い、保護者からの信頼は厚かったという。父親も寮長を務めた庵原哲也さんは「私たちは皆、静岡から大きく羽ばたいていってほしいという思いで学生と接してきた。今後もその気持ちで見守る」と誓った。
静岡新聞社