「今の時代に『国のために』というのは意味が全く異なる」…「ボストン1947」カン・ジェギュ監督が描いた“未来につながる過去”
マラソン場面の撮影にかかっていた成否
――終盤のボストンマラソンの場面はすごくリアルで、ハラハラする展開に手に汗を握りました。 20分ほどの場面ですが、最も力を入れて演出しました。この作品のスタート段階から、映画の成否は「マラソンの場面がちゃんと撮れるかどうか」にかかっていると思っていて、ソ・ユンボク(ボストンマラソンに出場した若手選手)役のイム・シワンさんには「君が本物のマラソン選手のように見えなければ、この作品は失敗してしまうよ」と言い聞かせてもいました。彼もちゃんとそれを理解し、一緒に頑張ろうという気で臨みましたね。 ――主人公のソン・ギジョンは、1936年のベルリン五輪でアジア人初のマラソンの世界新記録を打ち出した金メダリストですが、当時の日本統治下の朝鮮では「日本人の記録」とされてしまい、それに対する反発を示したことから五輪後に引退に追い込まれています。現在の韓国ではどのように記憶されている人物なんでしょうか? 劇中に「韓国の三大英雄は、イ・スンシン、アン・ジュングン、そしてソン・ギジョンだ」というセリフがあるくらい、象徴的な人物のひとりだと思います。残念ながら現代の若い世代にはよく知らない人も多いので、本作を通じて「歴史上にこういう大切な人物がいたんだ」ということをぜひ知ってほしいなと。
ナム・スンニョンの重要な役割
――映画は彼だけでなく、同じくベルリン五輪の銅メダリスト、ナム・スンニョン選手と、若手のソ・ユンボク選手の3人を主人公にしていますよね? この奇跡のような物語を、それぞれに異なる魅力を持った3人の人物で表現したいと思いました。1人目は世界を制したヒーローであるソン・ギジョン。2人目は「彼のようなヒーローになること」を目指している若いソ・ユンボク。そして3人目は、常にヒーローの影で2位や3位に甘んじてきたナム・スンニョンです。観客には「映画の主人公は3人のうちどの人物なのかな?」と思ってくれること、観客が必ず誰か1人に自分を投影できる作品になってほしいということを願っていました。 その上では、特にナム・スンニョンがとても重要な役割を果たしてくれたと思います。「優勝したい」と頑張るソ・ユンボクを応援したいと感じる人は多いと思いますが、万年2位、あるいはずっとビリばっかりだった人は、きっとナム・スンニョンに自分を同化させると思います。常に勝利を手にして最高位に上り詰めながらも、その過程において人生の辛酸を舐めた人は、ソン・ギジョンに心を寄せるでしょうし。 ――ちなみに監督はどの人物に? 「ソ・ユンボク頑張れ!」と思いつつも、実際に応援せずにいられないのは、やっぱりナム・スンニョンでしたね。編集作業の時にも「2人を中心に据えるために、スンニョンの分量を減らしましょう」と言われたんですが、最後まで「いや、スンニョンは残します!」と譲らずに頑張ったんですよ。