なぜ痴漢被害者の高校生は中傷された? 理不尽な炎上を助長する“思考停止した人たち”
現代ネット社会では、毎日のように「炎上」が巻き起こっている。中には「炎上しても仕方がない」と思われるようなものもあるが、時には、理不尽な炎上によって、言われなき誹謗中傷を受けたという人たちもいる。 本記事では、そんな理不尽な炎上の一つとして、「痴漢抑止バッジプロジェクト」の例を取り上げる。ノンフィクション作家の石井光太氏による取材から、炎上の背景にある「日本社会の歪みの正体」に迫る。
なぜ痴漢被害に苦しむ女子高生に誹謗中傷が殺到したのか
2015年、マスコミ各社は、Stop痴漢バッジプロジェクトが「痴漢抑止バッジ」を製作したことを報じた。痴漢被害に苦しんだ高校2年生の少女が、考案した痴漢対策グッズだった。 日本では、多くの女性が初めての性的な経験を痴漢によって強いられている。愛するパートナーより前に、見知らぬ男に体を触られている現状があるのだ。 ――安心して電車やバスに乗って、毎日学校へ行きたい。 少女はそんな願いで痴漢を防ごうと、このバッジを作った。だが、社会の反応は予想外のものだった。ネット上で、彼女やバッジに対する誹謗中傷が噴出したのだ。 次はその中の一例である。 <とても痴漢されそうにないブスほどこれ付けたがる未来が見えましたな。> <触られたくらいで騒ぐ女がバカ。男にモテなくて魅力がない免疫がないブス。> なぜ、人々はこんな罵詈雑言を平気で発するのか。ネットの言語空間の乱れが指摘されて久しいが、今なおそんな言葉が飛び交う背景を、この問題から考えてみたい。
入学式の翌日から毎日のように痴漢被害を受け続けた
事の経緯から記そう。 殿岡たか子が東京都内の高校に入学したのは、2014年のことだった。家から学校までは距離があり、電車を利用しなければならなかった。 最初に痴漢に遭ったのは、入学式の翌日だった。満員電車で傍にいた男性から、唐突に身体を触られたのだ。あまりの恐怖で体が凍りついた。話には聞いたことがあったが、実際に被害に遭ったショックは途方もないものだった。 今日は運悪く痴漢に遭遇しただけだ。殿岡はそう自分に言い聞かせたが、その後もほとんど毎日のように見知らぬ男性に胸や臀部を触られた。悪質なのは、加害者が同一人物ではなかったことだ。車両や時間を変えても、別の男性に痴漢の標的にされる。 彼女は特に派手な格好をしているわけでもなく、どちらかといえば地味で品の良いタイプだ。なぜこんなにも痴漢に狙われるのか。どうしていいかわからず、学校に着くなり担任の教師に泣きついたり、自室でむせび泣いたりしたりしたこともあったが、何の解決策にもならなかった。 殿岡は、自分で何とかするしかないと考え、部屋で痴漢に遭った時に「やめてください!」と声を上げる練習をくり返した。だが、実際に車内でそう叫ぶと、周りの人たちは助けてくれないばかりか、加害者は「俺じゃねえよ。ふざけんな!」と開き直って逆上したり、急いでその場から逃げ去ったりした。