なぜ痴漢被害者の高校生は中傷された? 理不尽な炎上を助長する“思考停止した人たち”
「痴漢=冤罪」という先入観が生み出した誹謗中傷
この一連の経緯を知れば、ほとんどの人が痴漢と戦った殿岡の勇気を讃え、プロジェクトの意義を理解して賛同するだろう。 だが、冒頭で述べたようにメディアがこのことを報じた時に起きた反応は真逆だった。情け容赦ない罵詈雑言が、殿岡やプロジェクトに向けられたのである。 <女子高生発案の『痴漢抑止バッジ』、女性にも渋い顔される そらこんなのつけてる奴とか、自意識過剰の冤罪増産キチガイとしか思えないからな> <冤罪増殖シールか もう痴漢は逮捕しなくていいよ> <痴漢を犯罪じゃなくせば解決やね> <「(冤罪を)泣き寝入りさせます」バッジの間違いだろ> <もうこれからセクハラや痴漢は全部嘘だと思っていこう> 松永たちは、これらの言葉に一つひとつ目を通し、なぜこういう発言が生まれるのかを考えた。そこにはかならず社会背景があると思ったからだ。 人々がネットに書き連ねた誹謗中傷には共通する特徴があった。発言者たちの多くが、痴漢=冤罪という前提で物事を考えているのだ。 前出の松永は次のように述べる。 「世の中には痴漢=冤罪というイメージが広まっています。だから痴漢をなくそうという声が上がると、男性たちは痴漢冤罪を増やすなという意見が出て来て、いつの間にかそういう話にすり替わってしまう。私見ですが、痴漢冤罪論が広まったのは、映画『それでもボクはやってない』が公開されたことが大きかったんじゃないでしょうか」 2007年に公開された映画『それでもボクはやってない』は、『Shall we ダンス?』で知られる周防正行監督が初めて制作した社会派映画だ。この作品は、日本の司法制度の歪みを扱ったものだが、無実の人間が痴漢に仕立て上げられるというストーリーだったため、痴漢冤罪の部分だけが独り歩きしていったのだ。 松永はつづける。 「痴漢冤罪は、メディアの人たちにも浸透しています。ドラマで痴漢が扱われる時は冤罪事件ですし、これまで何度も記者さんから『痴漢冤罪が多いことをどう思うか』と意見を求められました。 しかし、調べていただければわかるのですが、痴漢冤罪が多いとか、増加しているといった統計はどこにもありません。むしろ、痴漢冤罪より、痴漢をされても泣き寝入りしている女性の方が圧倒的に多いはず。それなのになぜか痴漢には冤罪の話がずっとついて回るのです」