休憩中も仕事が立て込み…飲食店店長が「未払い賃金」求めて提訴 ランチタイム、ディナータイムの間は“労働時間”にあたる?
裁判所の判断
Xさんの勝訴だ。 裁判所は、「ランチタイムとディナータイムの間の時間(14~17時)も、Xさんが業務にあたっており、業務以外の理由で店舗を離れることができなかった。なのでこの時間は会社の指揮命令下にあったといえ労働時間にあたる」と判断した。 ■ 社長の反論 Y社長は「14~17時の3時間のうち2時間30分は休憩できた」旨反論したが、裁判所は「実際にいろんな仕事をしている、会社はXさんが仕事から離れられるような対策を講じていない、Xさん自身『社長の怒りを買わないように、本当は休憩をとっていなくても報告書には休憩時間を記載していた』と主張していることからすれば、報告書の記載に基づいて休憩時間を認定することは相当ではない」と一蹴している。 約2000万円もの請求が認められたのは、長時間労働、すなわちXさんが勤務実績報告書に記載した労働時間がおおむね認められたからである。 ■ マメ知識 会社の指揮命令下にあれば労働時間になる。たとえタイムカードのようなものに「休憩時間」と書かれていようが、実際に会社の指揮命令下にあるならば、それはまぎれもない「労働時間」だ。 休憩時間のほかにも昨今、「着替え時間や手洗いの時間について賃金が支払われていない」として、従業員が声をあげるケースが増えている。 【関連記事】スシローのアルバイト学生「未払い賃金」を要求… “着替え”の準備は「労働時間」に入るのか? 【関連記事】IKEA従業員「着替え時間」も賃金支給へ 厚労省「労働時間」と明記も“未払い”放置されてきたワケ これらのトラブルも裁判所に持ち込まれれば、「会社の指揮命令下にあったのかどうか」が審理される。 ■ その他のバトル 詳細は割愛するが、会社は「Xさんは管理監督者だった、弊社は固定残業代を採用している、変形労働制を採用しているのでXさんが主張するような残業代は発生しない」旨主張したが、すべて裁判所からはじかれている。 管理監督者と認定されれば残業代はもらえないのだが(労働基準法41条)飲食店の店長レベルで管理監督者と認定されることは、ほぼない。すなわち残業代はもらえる。 【関連記事】“管理職”には「残業代を払わない」… 納得できず会社を訴え “912万円”ゲットの内訳 【関連記事】月100時間超の残業も「管理監督者だから」賃金なし… 退職後、裁判で「1500万円」回収した元課長の逆転劇 ■ 付加金 ちなみに、裁判所は約2000万円に加えて約1400万円の支払いも命じている。いわば“お仕置き”であり、法律用語では「付加金」という(労働基準法114条)。今回、裁判所は以下の事情を考慮している。 ・未払い賃金額が元本だけで1900万円もある ・Xさんは管理監督者ではない ・固定残業代の主張も認められない ・法違反の態様は悪質...etc
最後に
今回のような事件は、氷山の一角のさらに先端の鋭利部分だろう。飲食店の店長の中には、アルバイトを休憩に入らせた後も自らは休憩なしで働き、退勤のタイムカードを押した後に残務処理をしている人も少なくない。全国の店長のみなさま、どうか、身体と心が壊れる前に労働組合や弁護士に相談してください...。 ■ 林 孝匡(はやし たかまさ) 【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。情報発信が専門の弁護士です。 専門分野は労働関係。好きな言葉は替え玉無料。
林 孝匡