【大人の群馬旅】プライベート旅館のような隠れ家で“真夏の夜の夢”に包まれる
豊かな風土に彩られた日本には、独自の「地方カルチャー」が存在。そんな“ローカルトレジャー”を、クリエイティブ・ディレクターの樺澤貴子が探す連載である。梅雨どきの晴れ間に向かったのは、近年アートの街としても注目が集まる群馬県前橋市。まずは、市街地を見下ろす今宵の宿へと案内する 高感度な大人に人気の「赤城宿」【写真】
《STAY》「赤城宿 珠蕾山荘-syurai」 プライベート旅館のような隠れ家
市街地から車を走らせること30分、緩やかな斜面が続く牧歌的な情景を描く赤城山の南麓。この地に宿場町のような温もりを灯したいという想いから、2024年春に「赤城宿」と総称される3軒の宿泊施設が誕生、この7月にグランドオープンを迎えた。 プロジェクトを手がけたのは、山梨県を中心に古民家の再生を手がける「るうふ」。代表の保要佳江さんは「眠っていた建物を再生することは、建造物の個性に風土の味わいを加えてデザインすることが大前提。その上で水回りや空調面においては快適性を高めることも大切な要素です」と語る。 今回紹介するのは、大手流通企業として知られるベイシアグループの研修施設として創建された「珠蕾山荘」だ。「珠蕾」とは漢詩「梅花詩」に由来。赤城山の風雪を耐え抜いて可憐に花開く梅の逞しさになぞらえて命名されたという。
詩情溢れる名を冠した館は、建築的にも見所があり、まるで高級旅館と見紛うようだ。門を抜けると館の名に因んで植えられた梅のシンボルツリーに迎えられ、建物までは流麗な石段のアプローチが続き、その先に広大な芝生の前庭を両手で抱くような左右対称の棟が建つ。どの部分を切り取っても日本画のような美意識に満ちている。 左右に広がる棟は、内側の施錠付きの扉で分けられ、向かって左が「華の間」、右が「蕾の間」となる。入り口は別々で、キッチンや内風呂、サウナ設備などもそれぞれ独立しているため、完全にプライベートな空間を保ちつつ、広々とした敷地の開放感も楽しむことができる。デザインで特筆すべきは、壁や天井に施した左官の手技である。躍動的な岩肌を想起させるダイナミックな内装が、端正な木造美と不思議と調和。独創的でありながらも落ち着いた風情に仕上げられている。