少子化を生きる ふくしまの未来 第1部「双葉郡のいま」(5) 識者の見解 人口構成いびつに 「流動性」生む施策が鍵
東京電力福島第1原発事故が福島県双葉郡の少子化や人口減少に与えたインパクトを人口動態の専門家はどのように評価しているのか。厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所(社人研)で人口構造研究部長を務める小池司朗氏(53)は「原発事故が福島県、とりわけ双葉郡の人口動態に及ぼした影響は非常に大きいと言わざるを得ない」との見方を示す。 小池氏は東日本大震災とそれに伴い起きた原発事故が、阪神大震災や能登半島地震といった他の大規模自然災害と異なる特徴として、避難指示区域を中心に多くの住民が「戻りたくても戻れない状況に置かれた」ことを挙げる。「意思決定なき流出」が従来からの人口減少と少子化に拍車をかけ、かつその状態が長期化している点に特異性を認める。 「特殊な状態」は統計上の取り扱いからも明らかだ。2023(令和5)年12月、社人研は国勢調査や人口動態統計などを基に導いた2050年までの都道府県別・市町村別の「将来推計人口」を公表した。ただ、双葉郡を含む浜通り13市町村は「推計の基準とする国勢調査と住民基本台帳ネットワークのずれが大きい」などとして、市町村ごとの推計を見送り、浜通り全体を「一つの地域」とした推計値のみを出した。
こうした判断の背景には原発事故を機に、この地域に現れた「いびつな人口構成」がある。双葉郡の人口分布は総人口に占める男女の割合に偏りがあり、0~35歳未満では特に男性の比率が突出している。 小池氏によると、こうした構造の激変には復興事業の担い手として流入した男性の存在や、避難により加速した女性の流出が作用している。複数の特殊な要因が重なった結果、転出入した層が「将来どのような行動を示すのか把握できず、転出と転入の状況を見通せない」との判断に至ったと説明。2025年に実施される次回の国勢調査のデータが集まった段階で「人口構成のピラミッドが『一般的な形』に近づかない限り、単独市町村ごとの将来推計を示すのは難しい」との見解を示す。 では、こうした特殊な状況を踏まえた上で双葉郡の少子化を食い止めるには、どのような取り組みが必要となるのか。小池氏がキーワードに挙げるのは「人口移動の流動性」だ。