「無期懲役」に求めるものは罰か、更生か、それとも隔離か。被害者感情から実質「終身刑」化も
■罪の意識がない受刑者に無期懲役は意味がない?
刑務所の生活を望む者もいれば、長い期間を経て刑務所内で更生する者、刑務所を出られるようになってから本当の意味で反省する者、いろいろなパターンがある。日本の刑務所も近年、その環境は変わりつつあるという。海渡氏によれば、「受刑者自身が更生していこうとする、それについてヒントになるような様々なプログラムとか教育とか、そういうものを与えることを最も重視した処遇にしようと、少なくとも法務省の方針はそう変わりつつある。現場では不満を持っている受刑者が多いので、すごく変わったという状態ではないが、少なくともみなさんが思い描いているような、ただ単に刑務所に入れておくだけ、という状態から大きく変わろうとしていることは間違いない」という。 ただし罪を犯した者が、刑務所の中とはいえ、不満のない生活を送れることが、果たして「罪を償う」「罪の重さを実感する」ことになるかという点については、疑問の声も生じてくる。望んで刑務所に入った小島無期懲役囚に対しては、ネット上でも「犯人にとって刑になってません」「被害者が浮かばれないし生かす為に税金を払うのは馬鹿らしい」といった声も見られた。 これにジャーナリストの佐々木俊尚氏は「ひどい気持ちになることを無理強いする法律なんて、この世には存在しない。長期間、刑務所の中で行動の自由を束縛することこそが刑法の基本だ。罰を与える、更生されるというのは2つの大きな柱だと思うが、我々一般社会から見ると、その罰と更生以外にも、この社会にいてもらっては困るので、外側にいてもらった方がいいというのもある。なんで我々の税金で養わなきゃいけないんだという意見、その気持ちはすごく民意としてはわかるが、我々が社会からその犯罪者を隔離してもらうためのコストとして考えると、それは決して無駄な金ではない」と述べた。
■減り続ける無期懲役囚の仮釈放 実質的な「終身刑」に
日本では最厳罰の極刑である死刑の次が無期懲役、つまり終身刑がない。ところが現在では無期懲役囚が仮釈放されるケースがほとんどなく、実質的な終身刑になっているという別の問題も生じている。海渡氏は「今から数十年前、もともとは無期懲役になった人のほとんどが仮釈放になっていた」というものの、ここから徐々に仮釈放のハードルが高くなり「今は年間5人ぐらいが仮釈放で、同時に40人ぐらいが獄死している」と現状を伝えた。その理由として挙げたのが「被害者の声が非常に強まった」ということだ。2005年、有期刑の最高が20年から30年に伸びたことも受けた影響も大きい。有期刑受刑者よりも早い仮釈放が起こることのアンバランス、体感治安の悪化や凶悪事件増加などを背景に変更されたものだ。「もともと20年くらいで出られたところが、30年経たないと仮釈放の審理が始まらなくなった」。2010年代には仮釈放になった者のほとんどが35年以上服役してから。今後はさらに伸びる傾向だ。また佐々木氏も「裁判員制度が始まってから、厳罰化という恐ろしい現象が起きている。本来なら無期懲役で済むぐらいの刑を犯した人が死刑になっているケースとかも結構出てきて危険性がある」とも指摘した。 被害者の心情に配慮して、なかなか仮釈放が出ないというのが海渡氏の考えだ。「もちろん被害者の感情はとても大切で、被害者の感情は加害者を重く罰することによって癒されるとは限らない。加害者が本当に人間性を取り戻してくれたのを見て、安心する被害者だっていると思う。受刑者も仮釈放の希望がある方が、その人がいい方向に変わっていく大きなきっかけになる」。