唐田えりかの華麗なる復活劇 『極悪女王』に刻まれた俳優として“覚醒”する瞬間
配信中のNetflixシリーズ『極悪女王』の評判がすこぶるいい。すでにご覧になった方は誰もがその胸を熱くさせたことだろう。昭和の女子プロレスの世界を描いた物語はもちろんのこと、やはりあの世界で必死に生きようとしている俳優たちの姿に何度も心が震えたものだ。とくに、メインキャラクターのひとりを演じている唐田えりかに対して。『極悪女王』には彼女が俳優として“覚醒”する瞬間が刻まれているように思うのである。 【写真】“クラッシュギャルズ”としてリングに立つ唐田えりか&剛力彩芽 本作は、1980年代にカリスマ的な人気を誇る“最恐ヒール”として、女子プロレス界に旋風を巻き起こしたダンプ松本の知られざる物語を描いたもの。女子プロの世界に憧れを抱くひとりの少女が「極悪女王」へと変貌を遂げ、やがて熱狂の渦の中心に立つ存在となっていく。唐田が演じているのは、主人公・ダンプ松本(ゆりやんレトリィバァ)の親友からいつしか宿敵へとなっていく長与千種。両者ともに落ちこぼれとしてキャリアをスタートさせるが、ダンプ松本が「極悪女王」へと変化するように、長与千種は「アイドル的スター」へと華々しい変身を遂げることになる。ほかの多くの俳優たちが実在のレスラーを演じているように、唐田も実在するレスラーの半生を演じているわけだ。 これにはやはり、かなりのプレッシャーがあったのではないだろうか。たんにレスラー役を演じるわけにはいかないし、実在する人物のモノマネなんてもってのほか。それらしい振る舞いだけで成立する役どころではもちろんない。まず肉体から造り替えなければならないし、それにともなって精神も大きく変化していったことだろう。身体にも心にも相当な負荷がかかるはずだ。 主演のゆりやんレトリィバァや、相方のライオネス飛鳥役の剛力彩芽をはじめとする俳優たちの誰もが圧倒的な変化を遂げていく中で、唐田はその先頭を走り続けなければならない。長い時間をかけて共闘する仲間たちとはいえ、いやだからこそ、劇中に見られるようなライバル関係が生まれていたのではないのだろうかと推測する(当然ながら健全なライバル関係である)。各々の俳優の変化は、その見た目や言動のすべてに表れてくるはず。ひとりの変化は全体に影響を与えていたに違いない。 そんな重役を担っている唐田といえば、一時期は表舞台から姿を消していたことを誰もが知っているだろう。むろん、そのことについてここで何か意見を述べたりはしない。圧倒的な他人である私などに、本当のことなど何も分かりはしないのだ。ただ分かっていることは、彼女が優れた演技者であること。それは彼女がその名を世に知らしめた『寝ても覚めても』(2018年)のときからそうだったし、『極悪女王』が世に放たれたいま、誰もがそう再認識しているはずである。 通常であれば「熱演」という言葉はネガティブな意味合いでしか使わないし、「体当たりの演技」などという言葉も使わないようにしている。俳優は誰だって一生懸命に、つねに全身全霊をかけて演技に臨んでいるからだ。これまでに何度か唐田にインタビューをしたことがある者として、私は身をもってそのことを知っている。しかし本作での彼女の演技は、唐田自身の演技に対する情熱と長与千種のプロレスに対する情熱が重なり、ときにそれは画面から溢れ出してくる。画面に映し出される全身のアザは、いかに彼女が本作に対して自らの肉体を捧げたのかを物語っているだろう。長与千種が大成していくにつれ、唐田がまとう風格も、放つ気迫もどんどん変わっていく。小手先の技術などではとうてい表現できないものだ。その役としてただひたむきに生きようとする者だけが得られる真実味なのではないだろうか。