貴景勝引退でよみがえった「大親友でライバル」北天佑の記憶…元大関琴風の「演歌と土俵」
元大関琴風の中山浩一さん(67)(元尾車親方、津市出身)は、9月の秋場所中に現役を引退した元大関貴景勝(湊川親方)について「土俵の上で(力士としての)死に場所を探していたのだろう」と語った。けがに苦しんだ貴景勝関の姿に、中山さんも大関を陥落し、39年前に引退決断を逡巡(しゅんじゅん)した記憶がよみがえったという。(三木修司) 【写真】これは貴重!…後援会主催の野球大会で打席に立つ元大関琴風の中山浩一さん
連敗で休場…「やめるなら土俵の上で」
秋場所13日目の9月20日、中山さんは東京・両国の国技館近くにあるビルの一室で、報知新聞主催のトークショーに出演していた。5月に日本相撲協会を退職して以来、公の場で話すのは初めてだった。
その席で、貴景勝関について語り始めた。首や膝のけがが慢性化して思うように力が出ず、7月の名古屋場所で大関を陥落した。10勝を挙げれば特例で大関に復帰できる場所でもあったが、初日から2連敗で休場……。進退に注目が集まる中、貴景勝関は沈黙を保ち続けた。
中山さんは「2番とも貴景勝本来の相撲ではなかった。立ち合いで当たれなかった。当たれないから押せない。押せないから突き放せない……。(現役の続行は)厳しいと感じた」と話した。さらに「相撲をやめるなら、土俵の上で決める。こてんぱんにやられてやめた方がすっきりする。その一方で、このままではやめられないという葛藤もある」と、元大関の胸中を推し量った。
貴景勝貴信
たかけいしょう・たかのぶ 本名・佐藤貴信。1996年、兵庫県芦屋市生まれ、常盤山部屋。2019年3月場所後に大関昇進。優勝4度。引退会見では「横綱を目指し、手をいっぱい伸ばしたが、届かなかった」と語り、涙を見せた。
連勝記録を阻まれた因縁の相手
貴景勝関の妻、有希奈さんは、中山さんの大親友でライバルでもあった元大関北天佑(対戦成績は12勝12敗)の次女。北天佑は腎臓がんのため45歳の若さで他界した。有希奈さんと中山さんの長女が大の仲良しだったこともあり「自分の娘のように成長を見守ってきた」という。
中山さんにとって、北天佑は連勝記録を阻まれた因縁の相手でもある。2度目の優勝を飾った1983年初場所、琴風は初日に北天佑に敗れた翌日から翌場所7日目まで21連勝した。8日目に再び北天佑に負けた。有希奈さんには「『お前の父ちゃんにやられたんだ』なんて冗談も飛ばす」こともあるという。