勝ったら「ボコボコにされた」 南米スラムで“暗黙ルール”…現地にあふれる狡猾さ「Jはまだ甘い」【インタビュー】
スラム街クラブのホームに乗り込む際は「暗黙のルール」…“勝ってはいけない”
そんなパラグアイにおける印象深い出来事は、ある日のアウェーマッチで起こった。4部リーグは“スラム街”にあるクラブも多く、危険にあふれている。「試合の日は警察官と一緒にスラム街に」。厳戒態勢で向かう。さらに敵地では「暗黙のルール」として“スラム街クラブのホーム戦は勝ってはいけない”というものがあった。 2000人以上の観客が見守るなかで行われたとある一戦。マリンボブ氏の所属するチームが勝利を収めてしまった。 「審判も『お前ら何やってんの』みたいな顔をしていて。勝利の瞬間にスラム街の人と選手から、追いかけまわされてボコボコにされました。ロッカールームに逃げても飛び込んできましたね。バスの中へ逃げ込むも、もう石とか発煙筒とかバンバン投げ入れられて窓ガラスも割れるわで…。翌日俺らのこと新聞に載っているのかなと思ったけど、結果しか載っていなかったんです」 命からがらに帰路に着いた。新聞には「観客動員数は2人」と書いてあり、あとから聞いた話によると、当日集まった人たちはほぼ“無券”の乱入者だったようだ。「彼らは壁からよじ登ってスタジアムに侵入してきて、俺らをボコボコにして帰って行ったということですね」とマリンボブ氏も笑ったが、相当怖い体験だったはずだ。 こうしてすっかりパラグアイで南米色に染まったマリンボブ氏。だがパラグアイは年齢制限が厳しく、「23歳以上の選手がサテライトリーグに出るためには3人しか出られなかった」のだという。この時引退もよぎったマリンボブ氏。一度日本への帰国を決意する。だが次のキャリアを考えている最中、両親が放った一言がマリンボブ氏を再び南米へ導くことになる。(第3回/ボリビア編に続く)。 [プロフィール] マリンボブ(まりんぼぶ)/本名、松本磨林(まつもと・まりん)。1988年12月30日生まれ、埼玉県出身。オリンピアU-20(パラグアイ)―ウマイタ・フットボール・クラブ―ヘネラル・カバジェーロ・デ・カンポグランデ―サンマルティン(ボリビア)―ラ・マキナビエハ・ミルトン・メルガール―デポルティーボ・アレマン・デ・スクレ。18歳で単身南米へ。GKから半年でフィールドプレーヤーに転身。南米サッカーを8年経験し帰国。現在はピン芸人“マリンボブ”として、スマイラーズ(芸人で構成されたサッカーチーム)に所属する。日々自身のSNSで発信する“南米サッカーあるある”が人気を博す。
FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也 / Kenya Kaneko