父の背中を見て…春の選抜大会に初出場 酪農、漁業の町 北海道別海高校ナインに迫る「進路選択」
北海道を豊かにする大地と海の恵み。別海町のある根室管内ならば酪農、そして、ホタテをはじめとした漁業がそれにあたる。 思わず出てしまった……大谷翔平の妻、真美子さんの兄・真一さんの「ペッパーミルポーズ」 別海のキャプテンである中道航太郎は、日本有数の水揚げ量を誇る名物〝ジャンボホタテ〟、秋サケ漁を生業とする家庭で育った。 「自分は小さい頃から『漁師になるもんだ』と思っています」 真っ直ぐな志は不変である。ただ、今年のセンバツで初めて甲子園に出場し、未来が広がったことで、少し心がぐらついている自分がいることを中道は自覚している。 「甲子園に出たことで大学でも野球を続けられる道が見えてきたんですけど、全国レベルの高さを痛感させられたからこそ『今のままなら大学に行っても通用しないだろう』という考えもあって。夏まで野球に本腰を入れて頑張って、自分がどこまで成長できるかによって、高校を卒業したあとの進路を選択していきたいです」 人口約1万4000人。北海道の小さな町の公立校。いわば「普通の高校生」だった中道の運命が大きく動いたのは、半年前だった。 昨年10月に行われた秋の北海道大会。中道は初戦の苫小牧中央戦でサヨナラホームランを放ち、別海にとって春秋通じて同大会初勝利の立役者となった。 道東の別海町から試合会場の札幌ドームまで約5時間をかけて運転し、応援に駆け付けた父の大輔さんは、試合が終わるとすぐに車を走らせ帰宅した。そして、秋サケの定置網漁のため夜中の1時に港を出航する漁船に乗り、その日は一睡もしなかったという。 「あんな夢みたいなシーンを見せられたらね、寝ずに運転しようが仕事をしようが、全然苦じゃなかったですよ」 息子は続く知内戦でも、ノーアウト一、二塁から攻撃が始まるタイブレークとなる延長10回に決勝打を放ち、キャプテンとして獅子奮迅のパフォーマンスで父に応えた。大会でベスト4。翌年開催のセンバツで21世紀枠候補に選ばれると、大輔さんが見る世界も明らかに変わっていったのだという。 「秋の支部予選が始まるときに、地元新聞に航太郎の写真がちっちゃく載っただけでもすごいと思っていたのに、それどころじゃなくなって。毎日のようにテレビに自分の息子は出ているわ、スマホを開けば記事が載っているわ、『なんだこれは』と」 航太郎がバットで切り拓いた道は甲子園へと繋がり、そして、今や進路にも大きな可能性を示している。 漁師か野球か? 揺れ動く息子に、父は常に後押しする。 「今、本当にやりたいことをやればいい」 それは、航太郎が甲子園に出たからではなく、大輔さんが元から抱いていた親心である。 「ベッコウ(別海高校)の野球部OBが船に乗っていたり、この辺は『高校を卒業したら、すぐに漁師になりたい』って人は多いんです。航太郎も『漁師になる』と言ってくれているのは嬉しいですけど、親から『漁師をやれ』とは言わないです。せっかく野球で結果を出せているんだから、もう少し息子がプレーする姿を見たいとも思いますし。そこは本当に、本人に任せていますから」 甲子園の初戦で創志学園に0-7で敗れた別海にとって、夏は「全国初勝利」という忘れ物を取りに行く戦いとなる。 中道はそれまで、野球に心と体を燃やす。 もしかしたら大学でもプレーするかもしれないが、その先の夢はひとつ。 「漁師には、必ずなります」 そう宣言し、意志を強く結ぶ。 「人っておいしいものを食べると幸せな気分になるじゃないですか。自分が人を幸せにできる仕事は漁師かなって思っています。でも一番は、お父さんが頑張っている姿が『かっこいいな』って」